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なぜ中小企業には記者泣かせの経営者が多いのか?

2020.12.29

■連載/あるあるビジネス処方箋

1990年代から毎年ではあるのだが、今年も中小企業の経営者に苦しんだ1年だった。私は取材し、記事にするのが仕事だ。年間で平均70~90社程の企業取材をする。それとは別に、平均で60~70人の経営者や役員、元経営者や元役員のインタビュー取材をしている。

結論から言えば、中小企業の現役の経営者(この場合は社長)には泣かされることが多い。その理由は、主に次のものだ。

結果として「嘘」が多い

中小企業経営者は取材時に自社や他社、あるいは自分の現在や過去のことを話す。それはそれでありがたいのだが、後々、調べるとそんな事実はなかったり、相当に誇張されていたりするケースが多い。自分がそれに関わったかのように語る場合もある。ところが、それらは「自らの願望や思いでしかない」と取材を終えた後、聞かされることもあった。締め切り直前に、電話で確認をすると「(取材時に話したことは)忘れた。そんなことはたぶん言っていない」と堂々と話す経営者もいた。結果として、「嘘」に近いものでしかなかったのだろうか。

やや広がるが、労働組合ユニオンの役員に取材すると、団体交渉の場で中小企業経営者が話を誇張したり、そらしたりするケースが多いようだ。突然泣いたり、怒ったり、時に笑うことすらあるのだという。腕を組み、創業時からの歴史を語り、涙を流し、うっすらと笑みを浮かべる場合もあるようだ。実際に「俳優以上の芝居」なのだそうだ。

事実ならば、私には労使交渉に不誠実に臨んでいるように見える。ユニオンの役員によると、「不当な行為を行う中小企業の経営者のメンタリティーはこのレベル」なのだという。常識や良識的な人も多数いるのだろうが、残念な人がいることは事実なのだろう。

原稿を大胆に書き換える

取材を終え、原稿を書き上げる。それをそのまま掲載する場合もあれば、掲載前に取材を受けた相手にメールで送り、一定の期間で内容の確認をしてもらう時もある。それには、厳格なルールがあるわけではない。各新聞社や出版社、IT企業により、対応は異なる。

私は警察を始め、役所など公的な機関、政治家など法的、政治的な権力を握る人、反社会的勢力と目される団体などの構成員や関係者、裁判係争中の人を取材した場合は、事前に見せることはまずしない。企業の場合、特にインタビューは事実関係の確認の意味で原稿を送ることがある。あくまで、「事実関係の確認」だ。

これが、トラブルになりやすい。中小企業の経営者は原稿を読んだ後、自らが話したことを大幅に変えたり、大胆に削除したりする傾向がある。原稿がこちらに戻ってきた時に、あまりにも内容が変わり果てているので、驚く。取材時に話していたことと、ほぼ反対の内容になっていることすらある。ある部分が小説になっていたり、芝居の脚本のようになっていたものがあった。自社のホームページの「社長のあいさつ」をそのままコピーして盛り込んでいた場合もある。

修正をした原稿を最初から最後まで何度読んでも、論理の流れが破たんしていることが多い。文章というよりは、メモを何枚か集めたものにしか見えないケースが大半だ。原稿の中の事実を強引に変えて、自分にとって都合のいい内容にしようとする傾向は確かにある。こちらは、そのまま掲載することはとてもできない。残念ではあるが、掲載を見送りにする場合が多い。今年は、こういう中小企業の経営者は12~15人いた。いずれも、お詫びは一切ない。後々、嫌味らしきメールを送ってくる経営者はいた。

こういう経営者を取材する場合、「抑え」が必要だ。つまり、最悪の場合、掲載できなくなることを想定し、他の中堅、大企業の経営者を取材し、リスクマネジメントをせざるを得ないのだ。

中小企は「実力主義」「若手の抜擢が盛ん」か…?

私が接してきた経営者は、無数にある中小企業のうちのほんのごく一部であり、すべてに該当しているわけではない。だが、今回紹介したことはこの30年程に取材で面識を持った中小企業の経営者の7∼8割にはおおむね言えることである。今なお、一部のメディアや識者は中小企業を「実力主義」「若手の抜擢が盛ん」と持ち上げる。私は、その立場には与しない。実は、身内に中小企業経営者が長年何人もいたから、よくわかるのだ。

読者諸氏がこういう中小企業経営者が仕切る職場にいて、強い不満があるならば、他の会社に移ることを1つの選択肢にすることを勧めたい。あなたに損をしてほしくないから、繰り返し言っている。この類の中小企業経営者のもとで幸福になった社員を私は今なお、見たことがない。

2年前に、私は社会保険労務士の中村紳一さんを取材した。中村さんは1989年、27歳で社会保険労務士・行政書士として開業し、30年を超える。多くの中小企業経営者から厚生年金や国民年金を始めとした社会保障制度、社員の給与や賞与、退職金についての相談を受ける。一方、社員からも労働相談を請け負い、老後の助言もする。2011年からは、埼玉労災一人親方部会(厚生労働大臣承認・埼玉労働局承認)の理事長を務める。

2年前の取材では老後の生活の仕方がテーマだったが、こういうことを話していた。

「シビアな見方をすると、そもそも、中小企業に定年まで勤務することに私は理解ができないものがあります。私が仕事で接してきた中小企業の社長で、社員の老後を真剣に考え、「定年時に2000万円を残してあげないといけない」と思っている人はひとりもいませんでした。そのような方がいるならば、お会いしたいくらいです。社長がこのレベルならば、社員の側も生活や老後のことを考え直すべきでしょう」

これは1人の専門家の捉え方でしかないが、私には思い当たる経営者が多いのだ。後は、読者諸氏の判断にお任せしたい。

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文/吉田典史

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