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なぜ、一流企業やメガベンチャーは「通年採用」に消極的なのか?

2020.10.08

■連載/あるあるビジネス処方箋

「通年採用に、一括採用以上のメリットを見つけることができない」

新卒(主に専門学校、大学、大学院修士課程)の通年採用をする企業が増えている。私の取材者としての観察では、学生の中では知名度、ブランド力が高いとは言い難いベンチャー企業や中堅企業、中小企業に目立つ。新卒を雇うだけの業績(売上や経常利益)を維持し、受け入れる態勢をある程度は整えているが、知名度やブランド力が低いために、エントリー者が一流大企業やメガベンチャー企業(以降、メガベンチャー)に比べ少ない。いわゆる採用力が弱い会社が、圧倒的に多いのだ。

強力なブランド力を持つ一流大企業(50~80社程)やメガベンチャー(20社程)では、通年採用に本格的に踏み込むケースは少ない。一部にはあるが、それは一括採用での内定辞退者を補うための「補充」の意味合いのものが多い。このクラスの企業は精度の高い試験を行うために内定辞退者はわずかと思われる。あるいは海外留学を終え、4年の夏から秋に帰国した学生を雇うための「補充」のケースである。

一流大企業やメガベンチャーの多くは「通年採用」と称して例えば、春、夏、秋、冬の時期に何度も採用試験を行う考えは現時点では持っていない可能性が高い。

言い換えると、明確な根拠を持ち、「一括採用」を長年してきたのだと私は思う。経済合理性を追求し、「自社にとって大きなメリットがある」と確信を持ち、「一括採用」をしてきたはずだ。この10数年間の取材では、一流大企業やメガベンチャーの各企業の採用責任者は「通年採用に、一括採用以上のメリットを見つけることができない」と言いきる。

今回は、「なぜ、一流企業やメガベンチャーは通年採用に消極的であるのか」をテーマに、私の取材で得たことをもとに考えたい。

1. 「一括採用」には競合優位性がある

本コラムで10月1日に掲載した「なぜ、一流企業やメガベンチャーの新卒採用は優れているのか?」の内容の一部をあらためて書きたい。

「一流大企業やメガベンチャーの90%以上は「一括採用」の形式だ。人事部は学生が4年次の4~5月に集中的に試験を行い、内定を出す。大半の企業がエントリー者数は非公開としており、オフレコでもほとんど口にしない。私が30年程の取材で知り得た数字は次のようなものだ。

一流大企業やメガベンチャーの場合、総合職のプレエントリーが5~12万人、このうち本エントリーが5千~1万5千人の場合が多い。内定者は20~60人がオーソドックスだ。」

つまり、一流大企業やメガベンチャーの大半は母集団形成に成功している。この高いレベルの母集団形成ができるベンチャー企業、中小企業はゼロに近い。一流大企業やメガベンチャーはこのレベルに達するために相当のお金、時間、労力、リスク、犠牲があった。ビジネスでは通常、自分たちの強みをより強くする。それが競争相手の弱みならば、さらに力を入れるべきだろう。それが、「一括採用」であったのだ。

しかも、少子化で年々、学生は減る。少ない学生をめぐる企業間の争奪戦は激しくなる。一流大企業やメガベンチャーは強みであるブランド力、知名度、資金力を生かし、「一括採用」の時期に集中的に力を注ぎ、有望な学生を今後も獲得するはずだ。

現在までのところ、一流大企業やメガベンチャーは、欲しい人材を一括採用の春の時期にすべて獲得している。例えば、翌年4月に30人を入社させる予定ならば、内定辞退者が現れることを想定し、一括採用の時期に30数人に内定を出した可能性が高い。

しかも、いわゆる「学歴フィルター」を使い、特定の大学に絞り、選んだのではない。ある時点までは、例えば書類選考の際は、エントリー者が多いがゆえに何らかの形で偏差値ランキングを1つの基準としてふるいにかけたのかもしれない。だが、その後の筆記や面接では入学難易度が国立大学で1∼2位であっても、自社にとって不都合であったり、メリットがないと思える学生は相当な確率で不採用にしている。実際、一流大企業やメガベンチャーでは入学難易度の高い大学の学生を毎年、大量に不採用にする。

自社にとってメリットのある人材を筆記、1次、2次、3次面接をして上のステージへ上げていく。4次面接(最終面接)の前に、内定候補者の在籍大学、学部、筆記や面接の点数、性格、気質、得意分野や資格、専攻や専門をリストアップし、マトリックスなどの一覧にしている。そして、採用グループでポートフォリオ分析などで慎重にセレクトし、最終面接のステージに上げる。基準はあくまで「自社にとってメリットのある」がポイントで、世間の感覚ではない。入学難易度の高い大学の学生を不採用にする理由が、ここにある。ベンチャー企業や中小企業よりも、30歳前後までの定着率が総じて高いのも、この精度の高い採用試験のためだろう。

2. はるか前から「通年採用」を実施していた

「一括採用」だけでは、4年の夏から秋にかけて海外留学から帰国する学生を採用できない場合がある。だが、そのことを心得て、一流大企業やメガベンチャーははるか前から秋から冬に試験を行ってきた。

例えば、1979年にアメリカの大学への留学を終え、9月に帰国した東北大学法学部の学生を当時の都市銀行上位行(現在のメガバンク)が試験を実施のうえ、採用している。あるいは、1983年にアメリカの大学院(修士)を修了した国際基督教大学の学生を総合商社の上位社が試験を行い、雇った。

メガベンチャー企業でも、2002年秋に当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだった企業が明治大学農学部の大学院(修士)を終えた学生(別の大学の博士課程に在学中)を新卒として雇った。中近東の大学院を終えた外国人を2000年代前半に、キー局が新卒として採用もしている。

超トップブランドのメーカーは、2014年に有名なプロスポーツ選手が25歳で引退したために、既卒ではあるが、新卒と同じ扱いで採用した。いずれも、2013∼18年に私が取材で本人もしくは人事部の管理職から聞いたことである。一流大企業やメガベンチャーでは、こういう事例は私が知る範囲でも30∼40件はあった。おそらく、実際ははるかに多いのだろう。数十年も前から競合優位性を保つためにも、多様な人材を獲得してきたのだ。

3. 欲しい人材は「一括採用」で獲得し、その後は「補充」する

一流大企業やメガベンチャーははるか前から「一括採用」の時期に自社にとってジャストミートする学生を獲得し、内定辞退者や海外留学、大学院生、外国人を状況に応じて「補充採用」している。

しかも、「なぜ、一流企業やメガベンチャーの新卒採用は優れているのか?」で紹介したように、このクラスの会社は総じて定着率が高い。少なくとも30代半ばまでくらいは、レベルの高い人材が競い合う「密度の濃い競争の空間」がある。一流大企業やメガベンチャー企業と、中小企業やベンチャー企業のそれぞれ30代前半の社員を仕事力で比べるとすさまじい差がある。実感値で言えば、少なくとも10ランクは違う。

だからこそ、多くの一流大企業やメガベンチャーは国内外での競争に勝ってきたと言える。一流大企業は1960∼80年代の勢いはない場合もあるが、国際競争力は依然として強い。この一連の事実や実態を一般紙(人事や労務の専門紙ではない)である全国紙や、スタッフに人事や労務の専門家はいないはずのテレビ局の番組が伝えてこなかっただけなのだ。これらのメディアに登場する有識者も、企業の採用現場に精通しているのは皆無に近い。

今後、一流大企業やメガベンチャー企業は表向きは「通年採用をする」と宣言したとしても、「一括採用」に重きを置いたままだろう。これまで通り、「一括採用」の時期に内定目標数の9割以上を確実にゲットする。実際は、全員を獲得できる。そして、必要があれば秋から冬に「補充」の意味合いの試験を行う。しない場合もあるだろう。試験をする場合は、社内外では「進歩的なイメージ」を醸し出すためにも、「通年採用」と呼ぶはずだ。さすがに、「補充試験」とは言えないだろう。

さらに言えば、一流大企業やメガベンチャーの「通年採用」と中小企業、ベンチャー企業のそれは実態、意味合いや狙い、目的が大きく異なる。中小企業、ベンチャー企業の「通年採用」は、採用力が弱いがゆえの採用方法である可能性が高い。このクラスの企業の多くは、「一括採用」の時期に一流大企業やメガベンチャーに完敗し、欲しい学生を獲得できなかった。不本意な学生しか採用できなかったり、目標とする内定者数に達しないがゆえに、秋や冬に試験を実施している可能性が高い。特にこの7∼8年は好景気と人手不足、学生の減少で思い描いた人材が獲得できていない。それをカモフラージュするために、「通年採用」といった言葉を使うケースが多いはずだ。

私が取材で接する一流大企業やメガベンチャーの人事の採用責任者は、秋や冬には関心がさほどない。本当に欲しい学生は春に獲得しているからだ。彼らが注意深く見ているのは、学生が3年の夏から4年の4月頃までと思われる。「一括採用」の時期よりも前に、欲しい学生が他の企業の内定を獲得し、その後、就職活動をしなくなることを警戒している。人事の採用責任者が取材時に話す言葉で言えば、「採用を始める3∼5月に欲しい学生がいないと、我々の採用活動が成り立たない」だ。経団連が就職協定を廃止にしたかった理由の1つが、ここにある。経団連に加盟する一流大企業やメガベンチャーは、少ない学生をさらに精度の高い方法で確実に得たいのだ。

一流大企業やメガベンチャーの中には、経団連に加盟し、「協定を守る」と宣言しながらも、学生が3年の夏から4年の4月頃までに、有望な人材を20年近く前から採用していた企業もあった。事実上の「青田買い」に近い。いずれにしろ、一流大企業やメガベンチャーが「通年採用」を実施するならば、その時期は4年の春の「一括採用」の時期よりも後の秋や冬には関心がない。あくまで、3年の夏頃から4年の春までに、有望な学生を獲得したいのだろう。その意味での「通年採用」でしかない。それが、本音であるのはほぼ100%間違いがない。

文/吉田典史

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