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なぜ、一流企業やメガベンチャーの新卒採用は優れているのか?

2020.10.01

■連載/あるあるビジネス処方箋

 このコラムで紹介した「なぜ、社員1名を採用するのに応募者1名だけではダメなのか?」の内容とは異なる視点のものを、今回は紹介したい。

「なぜ、社員1名を採用するのに応募者1名だけではダメなのか?」では、大企業の新卒採用のたとえば、母集団形成は時代錯誤であり、社員が次々と辞めて、戦力にもなっていないといった趣旨だった。

 私自身の考えは、実はこの捉え方とは正反対に近い。今回はバランスを取るために、私の考えを述べたい。読者諸氏は、どのように感じるだろうか。

「大企業の新卒社員が次々と辞めている」?

 確かに大企業において新卒で入社し、3年間で退職する人が相当数いる。たとえば、下記は厚生労働省の調査「新規学卒者の事業所規模別・産業別離職状況」の結果だ。平成15年から平成30年まで、大卒の新卒者の離職率を勤務する会社の規模別に示したものである。小さな会社は1000人以上(通常は大企業として扱う)の事業所の離職率が他と比べ、全般的に低いことがわかる。

https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000556488.pdf

 大企業でも辞めていく新卒の社員はいるものの、実は中小企業でははるかに離職率は高く、大量に辞めているのだ。

 私の取材経験をもとに言えば、採用コンサルタントや求人広告会社、中小企業やベンチャー企業の人事担当者、それらの経営者や役員は総じて「大企業の新卒社員が次々と辞めている」と取材時に語る。ところが、「中小企業やベンチャー企業の新卒者はそれよりもはるかに辞めている」とは言わない。

厚生労働省のホームページには、さらにくわしい調査結果がある。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137940.html

母集団形成で大きな差

 母集団形成でも、大企業と中小企業、ベンチャー企業では大きく異なる。母集団形成とは通常、エントリー者を募ることを意味する。たくさん集めて、その中から様々な試験(書類選考、筆記試験、面接)を行い、内定者を決めていくといった考えだ。

 数十年前から、一流大企業やメガベンチャー企業(ベンチャー企業の中で売上や社員数が上位30番程以内で、実質的には一流大企業並みの力を持つ)は人事部の中に「採用グループ」の担当者を3~6人常駐させ、エントリー者を募る活動をする。

 たとえば、主要大学の就職課への挨拶や学生向けのイベントの開催、学生が読む雑誌やニュースサイトへ広告掲載をする。会社案内や求人のウェブサイトの企画制作、運営もしている。マスメディアの取材にも応じて、自社をアピールする。最近では、フェイスブックやインスタグラム、YouTubeでも露出度を高めている。

 たとえば、数社の大企業やメガベンチャー企業は、女性社員たちがAKB48の『恋するフォーチュンクッキー』に合わせて、踊る動画をアップロードしている。私の想像の域を出ていないが、学生(特に男子)を意識した母集団形成と言えるのではないだろうか。

 様々な手法を使い、学生を自社に振り向かせ、エントリーするように誘う。なぜ、こんなことをするのか。それは、たくさんの中からいろいろな試験を行い、フィルターをかけて選んだほうがメリットを得る可能性が高いと判断しているからと思われる。次は、取材時に多くの人事担当者が口にする言葉でもある。

「自社の社員、社風や文化、経営理念、業務の内容、仕事とエントリー者の学歴、基礎学力、性格、気質、価値観、経験、専攻(学習してきた内容や履歴)が合わない限り、定着はしないし、いい仕事もできない」

 内定者のバックグランドは、マッチしやすい傾向があるのだ。一流大企業やメガベンチャー企業はマッチングの精度が、中小企業やベンチャー企業よりは高いために離職率が低い。

 私の取材では、大多数の中小企業やベンチャー企業には総務部はあっても、人事部はまずない。まして、「採用グループ」はほとんどない。ごく稀にあったとしても2人程で、他の仕事の兼務をしている。実質的に機能はしていない。一流大企業やメガベンチャー企業レベルの母集団形成をしているとは言い難い。

一流大企業やメガベンチャー企業の採用の裏側

 一流大企業やメガベンチャー企業の90%以上は「一括採用」の形式だ。人事部は学生が4年次の4~5月に集中的に試験を行い、内定を出す。大半の企業がエントリー者数は非公開としており、オフレコでもほとんど口にしない。私が30年程の取材で知り得た数字は次のようなものだ。

 一流大企業やメガベンチャー企業の場合、総合職のプレエントリーが5~12万人、このうち本エントリーが5千~1万5千人の場合が多い。内定者は20~60人がオーソドックスだ。

 2016年に、あるキー局の女性社員を取材した。女性は2004年~2009年に人事部内の採用グループ(5人の社員で構成)に在籍していた。

 女性によると、2004年~2009年は総合職(アナウンサー職を除く)が毎年平均でプレエントリーが8万~14万を推移していたという。本エントリーは1万~1万5000人だったようだ。

 本エントリー者を筆記試験や面接試験(5回が多い)をして、40人程に選ぶ。仮に本エントリー者を1万人としても、倍率は250倍程になる。アナウンサー職になると、「女性アナウンサーは軽く、数千倍を超える」とのことだった。

 女性社員は国立大学(入学難易度は1∼2位)を2004年に卒業し、同年に入社し、同期生は約40人だった。2016年の時点で、退職者は2人。ほぼ毎年、45歳までくらいは同期生約40人のうち、辞めるのは数人なのだという。いかに定着率が高いかが、わかる。

 女性社員は、2016年の時点で34歳だった。地方放送局の同世代の女性社員と比べると、次の点でおそらく、5~7ランクは上に見えた。

「業界や自社、競合社の理解度、興味・関心」
「自社の人事制度や賃金制度の内容、歴史、経緯」
「担当する仕事の内容、所属部署の実態」
「担当する仕事の知識、興味・関心、熱意」
「キャリア形成への意欲、考え」

 他の業界の中小企業やベンチャー企業の30代前半の女性社員と比べると、キャリア形成への意欲、競争意識、役職や収入など社会的な意味での成功への執着は20ランク以上は上に見えた。相当に知力や意識の高いタイプだった。中小企業やベンチャー企業の社員とは、違う国の人に思えるほどだった。

社員の質はまさに別世界

 この一例は極端なケースに感じるかもしれないが、そうではないと私は思う。母集団形成がおおむね成功している一流大企業、メガベンチャー企業と、上手くいっていない中小企業、ベンチャー企業の社員の質はまさに別世界なのだ。

 出版界でも、入社の難易度が最上位の3∼4社(すべてが中堅、大企業)とその下に位置するグループ(15~20社、うち13~14社は中小企業)の編集者の仕事力は、少なく見積もっても3∼5ランクは違う。これよりもさらに下のグループの数百社(その大半が、中小企業)の編集者の仕事力は一段と下がる。最上位とは同じ国の出版界には見えない程だ。

 中小企業やベンチャー企業の本エントリー者は、私がこの15年程で新卒採用をテーマに取材した300社程では、多くとも500人前後である。1000人を超える会社は数社しかない。300社のうち、270社前後は100人以下だ。しかも、20∼50人が最も多い。この中から、数人の内定者を選ぶ。倍率は、高くとも10∼20倍だ。内定者は大学の入学難易度で言えば、中堅以下の私立大学が目立つ。20代後半までのいわゆる第2新卒や専門学校卒、高卒(既卒で、20代前半)の人も多数いる。このあたりまで含めると、一流大企業、メガベンチャー企業と中小企業、ベンチャー企業は明らかに違うのだ。

 心得るべきは、中小企業やベンチャー企業は退職者の数や離職率は一流大企業、メガベンチャー企業よりもはるかに多いし、高い。30代半ばまでくらいの仕事力の差も極めて大きい。本来、ここも伝えないと「公平な報道」とは言わないだろう。ある一面だけをことさら強調し、繰り返し伝えると、間違った世論になりうる。ゆがんだ報道をそのまま受け入れることだけは避けたほうがいい、と強く言いたい。「なぜ、社員1名を採用するのに応募者1名だけではダメなのか?」と読み比べて、考えていただきたい。

文/吉田典史

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