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「部下のいない管理職」はある意味、特殊な人材なのか?

2020.11.20

■連載/あるあるビジネス処方箋

 今回は前回に続き、「部下のいない管理職」をテーマとしたい。前回は、このような管理職が大量に生まれる理由を取り上げた。

私が取材を試みたのは人事コンサルタントであり、明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科の客員教授である林明文氏。デロイトトーマツコンサルティングで人事コンサルタントとなり、その後、大手再就職支援会社の社長に就任。2002年からは、人事コンサルティング会社・トランストラクチャの代表取締役を務め、現在は会長。著書に『経営力を鍛える人事のデータ分析30』(中央経済社)などがある。

Q 「部下がいない管理職」が大量に生まれる、もう1つの理由とはどのようなものでしょうか。

特に大企業の場合、総合職の社員数が採用時から多すぎるのです。メーカーは研究職として専門職を雇う場合がありますが、多くの業界では依然、総合職の採用が大半です。入社時、総合職は管理職、さらに役員になることを期待されます。大卒がこれほどに増えているのに、ただ単に大卒だからといって、新卒時に全員を総合職として採用する。そもそも、現時点で管理職のポストがそんなにありません。だからこそ、部下のいない管理職が増えているのです。

今後、管理職のポストはますます減っていくのです。経済環境が厳しくなると、総額人件費を厳格に管理する必要に迫られます。ポストを減らさざるを得ない。ITの環境や様々なツールのレベルは、さらに高度化するでしょう。それらを駆使すればおそらく、1人の管理職が管理・監督できる部下の数は増える可能性があります。ポストは、一層に減ることが予想されます。

ここまで状況が見えていながら、なぜ、多数を総合職として採用するのか…。本来、企業にとって管理職は特殊な人材と言えます。総額人件費の厳格な管理をしているならば、全社員の10%前後に選ばれた人です。しかも、高度な管理能力や経営能力を理屈のうえでは持っているはずです。今後はグローバル化やダイバーシティ(多様性)が進みます。管理職には、ものすごい難しい技能が求められるのです。誰もが管理職をできる時代ではありません。

 むしろ、育成すべきは専門職です。市場環境が飽和した状況であろうと、高度な専門職や高度な技能、技術を持つ人が増えれば、まだ発展していくのです。それにもかかわらず、総合職として雇い、管理職や役員を作ろうとしています。つまり、社員たちを誤った方向に引っ張っているのです。

Q 大企業に限らず、ベンチャー企業、中小企業など、その大半が総合職として採用していますね。

各企業でキャリアパスの考え方は異なるのでしょうが、大企業ならば通常は多くは40歳前後で管理職(この場合は課長)になるでしょう。40代半ばから後半になっても管理職になれなかったり、部下のいない管理職にしかなれない人を突然、専門職にすることは通常はできません。管理職の育て方と、専門職のそれは大きく異なります。

管理職には自分が仕切る部署はもちろん、他の部署も含めて状況を見渡して、適切な統率、管理をする力が求められます。だからこそ、一定の期間で

ジョブローテーション(人事異動や配置転換)をして、その意味での力を養うようにします。専門職を育成するならば、次々と部署を異動させてはいけない。その人の専門性が生きる部署で、場数や経験を踏ませてスペシャリティを身につけさせるべきです。

Q 総合職採用と(前回取り上げた)職能資格制度、長期安定雇用は相関関係があるように見えます。

それらは、いずれも日本が大きな経済力を持つに至った要因です。職能資格制度は、高度経済成長期(1950年代後半~1990年代前半)においては圧倒的に効果がありました。経済力があり、市場拡大が続く成長期と実にマッチした人事制度の仕組みと言えます。成長期にはそれぞれの企業の業績が拡大し、市場の規模が大きくなっていきます。その時、企業は攻勢をかけます。

そこで真っ先に求められるのは、各部署を現場監督する管理職なのです。管理職を通常のペースよりも早く、そして供給(管理職にするという意味)を少々過剰気味にして、たくさん育成する必要があるのです。そうしないと、せっかくの市場拡大の好機を逃すことになりかねません。

職能資格制度のもと、通常、一般職が等級を1つずつ上げていき、管理職になります。大企業ならば、その数が毎年増えていくのです。各部署を現場監督する管理職を次々と供給するためです。企業の規模が大きくなり、つまり、ピラミッドが大きくなると、管理職のポストがどうしても必要になります。成長を持続させるためには、管理職を通常のペースよりも供給過多にしなければいけない。そうしないと、成長はできないのです。

例えば、社員数1000人の企業が成長し、1500人になったとします。その増えた社員たち(一般職)を管理・監督する管理職が早急に必要になるのです。管理職の予備軍を日ごろからストックしておき、育て上げることが必要になります。それが、企業成長のパターンの1つです。それを可能にしたのが、職能資格制度です。

Q ところが、1990年代前半から今に至るまで経済規模がなかなか大きくはならない。好景気になっても、高度経済成長期に勢いには到底及ばない。これでは、市場拡大にも限界がありますね。

問題は、そこにあります。職能資格制度のもとでは、経済が行き詰まり、シュリンクし始めた時にさえ、部下のいない管理職が次々と大量生産されてしまいます。ましてや、この制度のもとでは例えば、課長を一般職に降格すらできません。

日本の経済が大きくならないのに、管理職を育成した結果、部下のいない管理職が大量に生まれているのです。こういう管理職は今までは、現在の職場でじっとしていれば雇用を守ることができたのかもしれませんが、おそらく数年以内にリストラや転籍、あるいは賞与などが大幅に減るケースが確実に増えるでしょう。企業は、部下のいない管理職や管理職になれない中高年をまず、狙うはずです。

この人たちにとって、現在の企業に残ったところで大きなメリットはないのかもしれません。大企業や中堅企業で40歳以上になっても、ポストに長く着くことができないならば、早急にキャリアの見直しをした方がよろしいのかもしれませんね。

Q 今後、就職をする学生の側はどうすればよいのでしょうか。希望が見えない気がします。

「当社は総合職しかいません。今後も総合職しか雇いません」といった企業ならば、就職先として積極的に私はお勧めしません。総合職の他に、専門職があるのか否か。あるならば、どのようなものか…。総合職として入社しても、その後のキャリアの流れ、キャリアパスがどうなっているのか。どのタイミングでどういう専門職になるのか…。これらが社員にとって魅力的であるかどうか。

管理職者数とポスト数を聞いて、その差があまりにも大きい場合は総額人件費の管理に大きな問題がある可能性があります。キャリアパスの流れがないと言えるかもしれません。こういう企業に就職することも、お勧めはしません。社員数が1000人ならば、管理職が3割以上、つまり300人以上いる場合は好ましくないと思います。もともと、管理職は通常はだいたい、15%前後が適正数値です。1000人ならば、150人前後でしょう。

Q 本来は、管理職の数、部下がいる管理職と部下のいない管理職の数も各企業は公にするべきでしょうね。自社のホームページに掲載するようにさせたほうがいい。そうしないと、部下のいない管理職が炙り出されません。働き方改革では、こういう管理職の降格や解雇にまで踏み込んで議論がされませんでした。中途半端な改革で終わりました。

今後は本来の管理職の姿、つまり、(前述したような)特殊な人材になっていくんだと思います。1990年代前半に高度経済成長が終わり、低成長になった後も、この約30年間、大量の新卒者を総合職で雇い、「管理職を目指そう!」といった路線が間違いだったんだろうと思います。

これからは、本当の意味での管理職、役員と専門職の時代になっていきます。専門職は何か一つの技能に抜きんでて、それで勝負していく。そのほうが企業や職場の希少価値が上がる時代になります。だからこそ、20代のうちから、自分は何をどのようにして生きていくのか、と考えなければいけない。管理職になろうとするのか。それとも専門職を目指すのか。40代になってからそれを決めるでは、手遅れかもしれませんね。

部下のいない管理職はおそらく、ある程度の年齢のところまではそれなりに仕事をして、潜在的なポテンシャルは比較的高いのだろうと思います。少なくとも、中小企業の管理職クラスよりはマネジメントの力ははるかに高いのではないのでしょうか。一応は、同じ職場でラインの管理職(部下のいる管理職)を見てきているわけですから…。中小企業の管理職のレベルとは桁違いのはずです。言い方を変えると、中小企業の管理職のマネジメントレベルが低すぎると言っても過言ではないのです。

Q 出版業界でも、入社の難易度が最上位の3∼4社と最下位のクラスの数百社の管理職のマネジメント力は、少なくとも10ランクの差があります。まさに別世界。最下位のクラスの管理職は、一般職と何ら変わらないように見えます。「部下を育成する」といった考えすらない人もいます。中小企業の管理職はなぜ、あれほどにマネジメントができないのでしょうか。

中小企業の管理職のマネジメントレベルが低い傾向はもちろんあるのでしょう。企業の規模が小さいから、部下育成などの機会が少ないのです。マネジメントをする必要に迫られていないとも言えるでしょう。

菅政権は、中小企業の再編を政策にしようとしているようです。中小企業と中小企業を合併させ、やや規模の大きな企業が今後、次々と誕生する可能性があります。そこでは、マネジメントや経営ができる人が求められるようになります。それを中小企業の現在の管理職がするのは、おそらく難しいでしょう。その意味でも、大企業の部下のいない管理職の存在は大切なのです。この人たちが、中小企業を救うことができるかもしれません。

部下のいない管理職をリストラすると、大企業は含み損である余剰人員を大幅に削減できます。本人(部下のいない管理職)は収入が下がったとしても、ビジネスパーソンとしてのキャリアを磨くことができます。70歳までは働からざるを得ない時代で、40~50代でいったん退職し、キャリアを見つめ直すことは必要です。そのほうが、部下のいない管理職にとっては実はメリットが大きいのだと思います。リストラはこの意味では社会貢献であり、まさに「三方よし」ではないでしょうか。

取材を終えて

前回と今回と2回にわけて「部下のいない管理職」が生まれる背景をインタビューで炙り出そうと試みた。私は、こういう管理職はせめて一般職に降格にすべきと30年程前から思っている。今なお、いったん管理職になったら降格はない状況が続く。仕事に求められる技能が高度化、専門化している。例えば、本部長になったとしても、それにふさわしいマネジメントができないことはありうるのではないか。

ところが、法の場で降格をテーマに労使が争うと、企業側が不利な闘いを強いられるケースが多い。降格は、なかなかできないようになっている。そろそろ、裁判所は時代や環境の変化を見据えた判決をしてもらいたいと思う。

例えば、この半年間でオンライン会議が増えた。部下のいない管理職を始め、部下のいる管理職も使い方がわからず、めちゃくちゃな仕切りをしていないだろうか。デジタル化が進むほどに、こういうシーンが増えるはずだ。これでも、降格をさせることができない現状は明らかに問題がある。

やや話が広がるが、書き残しておきたい。パワハラが起きる理由の1つには、降格がないこともあると私は思う。管理職からすると、職位が下の者は怖くないのだ。降格を増やせば、今、いじめをしている上司は「今度は、この部下が自分の上司になるかもしれない。その時、復讐を受けるかもしれない」と思うだろう。その逆もある。「今は上司からパワハラを受けているが、自分が上司になったら復讐をしてやる」と部下は決意するかもしれない。この下剋上を職場に多数作ることが、職場の活性化になる。まさに働き方改革の本丸の1つではないだろうか。

降格がないかゆえに、管理職や役員の立場が一般職に対して強くなりすぎる。結果として、残業時間の削減や有給休暇の消化がスムーズに進まなかったのだ。働き方改革では、管理職と役員の改革には手つかずだった。このあたりは、本連載「働き方改革といわれているのにほとんど進んでいない重要な2つの改革」で私の考えを紹介した。

「部下のいない管理職」は、新卒採用とも深い関係がある。本連載の下記の記事をぜひお読みいただきたい。実態をご理解いただけると思う。

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文/吉田典史

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