■連載/あるあるビジネス処方箋
ここ数回、小さな会社の人材育成について私の考えを紹介してきた。「中小企業の管理職はなぜ〝お山の大将〟になってしまうのか?」「小さな会社の管理職が部下を育てようとしないワケ」「小さな会社ではなぜ人が育たないのか?」。
今回は、小さな会社では30代半ばまでくらいに上司や周囲の社員とコミュニケーションが苦手で、トラブルなどを起こす社員がなぜ、同世代の中でいち早く認められるのか、について私の考えを紹介したい。
この場合の「小さな会社」は正社員数で言えば300人以下の中小企業や、創業10年以内のベンチャー企業で、特に売上10億円以下の会社を意味する。過去3回の記事とあわせて読んでいただくと、小さな会社の実態が見えてくると思う。
■言いたい放題、やりたい放題の30代社員
まず、一例を挙げたい。社員数が90人程の出版社で30代半ばの女性が最近、副編集長(課長)になった。1年前、同じ部署の4歳の上の男性社員が副編集長になったことに嫉妬し、怒り始めた。上司である編集長や役員に「なぜ、私ではなく、あの男を先に副編集長にしたのか?」と抗議を繰り返した。周囲の社員によると、言いたい放題、やりたい放題だったようだ。
女性は20代前半から周囲の社員との摩擦が絶えなかったが、同世代の中では仕事ができる部類だった。ただし、同時期に入社した社員2人ははるか前に退職している。なぜ、こういう問題社員が認められるのか。私のこれまでの取材をもとにその背景を考えたい。
■正しく評価する仕組みがない
小さな会社の多くは大企業に比べて組織として未熟であるがゆえに、チームとして動くことがなかなかできない。ほとんどの中小企業は20~30年前から続けて毎年新卒採用をしていない。おのずと世代や年次により人員構成がバラバラになり、同じ部署でも円滑な意思疎通は難しい。
たとえば、私が頻繁に出入りする出版社(社員数300人)の書籍編集部では40~50代が6人、30代が1人、20代が2人といった構成になっているが、新たに人を雇い、20~30代を補充することもできない。これでは、大企業のような組織の力を生かした仕事はまずできない。
組織が未熟な会社では、仕事がある程度出きれば、言いたい放題、やりたい放題にするほうが、ある時期(特に30代半ば)までは、同世代の中では早く認められ、管理職になることがある。ほかの社員が何をしているのか、わからないようになっているからだ。
まして小さな会社では、役員や管理職のレベルが大企業に比べて低い。管理職は、なんとなく仕事をしているかに見える部下を優遇することが多い。査定の仕方や査定の前の観察(見取り)も、人事評価の仕方も正しく理解していないからだ。大半の役員や管理職は部下の育成などの教育訓練を正しく受けていない。結果として、なんとなく仕事ができる雰囲気を漂わせ、やりたい放題にしている社員がますます、図に乗るようになっている。