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「コロナ禍で大企業の社員がたくさん辞めている」という噂を検証する

2020.11.07

■連載/あるあるビジネス処方箋

 本連載で「「大企業の社員がたくさん辞めている」という噂は本当か?」を取り上げたが、今回はその続編としたい。一部のマスメディアや識者は「大企業でもバンバンと倒産し、社員がジャンジャンと辞めている」と語る。だが、私はこの認識は事実関係として30年程前から一貫して疑わしいと思っている。今後、就職しようとする学生やその予備軍に間違ったことを伝えているのではないか、と強い疑問を感じる。

「大企業の社員がジャンジャンと辞めている」ならば、中小企業やベンチャー企業の社員は「ジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャンと辞めている」と説明すべきだろう。このように伝えないと、情報としては大きな偏りがある。情報提供者として道義的な問題が残ると思うのだ。

「「大企業の社員がたくさん辞めている」という噂は本当か?」で紹介した通り、中小企業やベンチャー企業のほうがはるかに多く倒産し、失業者が多い。しかも、解雇や退職強要など労使トラブルも明らかに大企業よりも多い。

 このような問題意識を持ち、「「大企業の社員がたくさん辞めている」という噂は本当か?」では東京商工リサーチや中小企業庁、厚生労働省の調査結果をもとに大企業の倒産や離職率を検証した。

 今回はより多角的に捉えることで、真相をあぶり出したい。そこで、日本経済新聞社と日経リサーチが2017年からスタートさせた日経「スマートワーク経営」調査の結果で考えてみたい。同調査は様々な観点、角度から企業経営のあり方を調べるものだが、今回、取り上げるのは離職率を企業規模や属性から捉えたものだ。

 調査の概要は、以下の通り。

調査の実施期間:20177月~20179
調査対象:全上場3,673社および従業員100人以上の非上場企業(非上場企業はエントリー制)
有効回答数:602
調査方法:専用サイトを経由した電子調査票回答形式

  調査によると、次のような結果になった。

2016年度の602社の平均離職率(離職者には他社への転籍者も含む)は3.7%。
最も高い(=辞めていく確率が高い):正社員500人未満の企業で7.1%、
最も低い(=辞めていく確率が低い):5000人以上1万人未満の企業の2.3%、次に低いのが、1万人以上の企業で2.4%。

 注目すべきは、5000人以上1万人未満の企業だ。これらの企業のうち、約65%が離職率2%未満だという。さらに3000人以上5000人未満の企業と1万人以上の企業のうち、過半数が離職率2%未満だった。企業規模が大きくなるにつれて、離職率は低くなる。規模が小さくなると、離職率は高くなる。

 やはり、私には「大企業の社員がジャンジャンと辞めている」ならば、中小企業やベンチャー企業の社員は「ジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャンと辞めている」ようにしか見えないのだ。

■離職率(2016年度の離職・転籍者数÷正社員数、無回答企業は除く)

日経「スマートワーク経営」調査(日経リサーチ)より転載

 なお、上記のグラフの「属性別比較」を見ると、年代別の離職率は20代以下が6.1%と最も高く、40代が2.3%で最も低い。40代と50代以上では、離職率が1%未満の企業の比率が高い。ミドル層は、ある意味で守りの態勢に入っていると言えよう。これで「70歳定年」となると、深刻な問題になるはずなのだが、現在までのところ、それを問題視するメディアや識者は少ない。そのしわ寄せや負担は必ず、20∼30代に行くはずなのだ。

 1%未満の企業は40代では35.2%、50代以上でも24.6%になるという。4050代では離職率はそれよりも下の世代よりははるかに低く、辞める社員数も少ないのがうかがえる。

規模が大きくなると、新卒採用に重きを置く傾向がある

  もう1つ、興味深い調査結果を紹介しよう。これも日本経済新聞社と日経リサーチが2017年からスタートさせた日経「スマートワーク経営」調査の1つである。

 調査の概要は、前述の通り。この調査によると、全正社員に占める新入社員の比率は2016年度(164月~173月)に全602社平均で6.5%。うち新卒入社は3.8%、中途入社は2.8%。

 下記のグラフが示すように、社員500人未満の企業の中途入社が6.4%だったのに対し、5千人以上1万人未満の企業は1.1%、1万人以上の企業は1.4%にとどまる。中途入社が新卒入社より多いのは、500人未満の企業だけである。

 捉え方を変えると、500人未満の企業の場合、新卒採用がその企業が思い描くように進んでいない可能性があると私は思う。

日経「スマートワーク経営」調査(日経リサーチ)より転載

 ここで、本連載「中小企業の新卒採用は8割が影響を受け、2割が取りやめになったのはコロナ禍だけが原因なのか」で述べたことを再度、取り上げたい。

「中小企業、ベンチャー企業の場合、新卒・中途を問わず、大企業に比べると、採用は雑な傾向がある。総務部はあっても、採用を専門にする人事部がないために、母集団形成(エントリー者を募る)が十分にはできない。数十人から数百人といった少ないエントリー者の中から面接などでふるいにかける。

 面接の回数は、大企業に比べると少ない。通常12回だ。大企業は35回が多い。しかも、中小企業、ベンチャー企業の面接官である社長や役員、管理職は面接に慣れているわけではない。そのような教育研修は、社内にほとんどない。ぶっつけ本番で面接をするケースが多く、エントリー者の業界や会社、職種への適性を時間内で正確に見抜くことがなかなかできない。

 大企業のような潜在的な力の高い人材をほとんど雇えないのが、現実なのだ。  結果として、新卒で入社しても30歳前に次々と辞めていく。大企業よりは、離職率は概して高い。在籍中や退職時のトラブル(退職勧奨、退職強要、パワハラ、セクハラ、解雇)は大企業と比較するとはるかに多い。止むを得ず、中途採用を繰り返して急場をしのぐ。数年後、ある程度の落ち着きが出てきたら、また、新卒採用をする。そこで前回同様に失敗してしまう。つまり、採用→定着→育成の人事の極めて大切な柱が立たない。」

 すべての中小企業やベンチャー企業がこうだとは言わないが、概して採用力が弱く、人材の質としてやや見劣りする人を結果として雇い入れるケースが多いのは、否定しがたい事実だ。結果として、定着率は大企業やメガベンチャーに比べると総じて低くなる。これでは、育成がなかなかできない。採用→定着→育成の流れは、それぞれ深い関係がある。得てして、採用で上手くいかないと定着も成功しないものだ。そのことを心得ていても、中小企業やベンチャー企業にとっては相当に難しい。

大事なことなので、繰り返し書いておきたい。「大企業の社員がジャンジャンと辞めている」ならば、中小企業やベンチャー企業の社員は「ジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャンと辞めている」ことはほぼ間違いない。読者諸氏が一部のマスメディアや識者に感化され、新卒や中途の採用試験時に間違った選択をしてほしくないと心から願っている。

そのような思いで、以下を書いてきた。よろしければ、ご覧いただきたい。

・一流企業やメガベンチャーの社員が総じて優秀な理由
・「大企業の社員がたくさん辞めている」という噂は本当か?
なぜ、新卒のエントリー者数が増えるほど会社は強くなるのか?
一流企業やメガベンチャーは、なぜ新卒採用にこだわるのか?
なぜ、一流企業やメガベンチャーは「通年採用」に消極的なのか?
なぜ、一流企業やメガベンチャーの新卒採用は優れているのか?
なぜ、社員1名を採用するのに応募者1名だけではダメなのか?

文/吉田典史

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