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中小企業の新卒採用は8割が影響を受け、2割が取りやめになったのはコロナ禍だけが原因なのか

2020.08.06

■連載/あるあるビジネス処方箋

 日本商工会議所は、7月31日に中小企業の景況感調査を発表した。それによると、新卒採用を行う企業のうち、「新型コロナウイルス感染により採用活動に何らかの影響が出ている」と答えた企業は77.5%に上った。この中で、採用を取りやめた企業は20.4%。「新卒採用をもともと実施していない」と回答した中小企業を除いて集計したという。今回は、この報道の背景を私のこれまでの取材経験をもとに考えたい。

 中小企業の場合、新卒・中途を問わず、大企業に比べると、採用は雑な傾向がある。総務部はあっても、採用を専門にする人事部がないために、母集団形成(エントリー者を募る)が十分にはできない。数十人から数百人といった少ないエントリー者の中から面接などでふるいにかける。面接の回数は、大企業に比べると少ない。通常1~2回だ。大企業は3~5回が多い

 しかも、面接官である社長や役員、管理職は面接に慣れているわけではない。そのような教育研修は、社内にほとんどない。ぶっつけ本番で面接をするケースが多く、エントリー者の業界や会社、職種への適性を時間内で正確に見抜くことがなかなかできない。大企業のような潜在的な力の高い人材をほとんど雇えないのが、現実なのだ。

 結果として、新卒で入社しても30歳前に次々と辞めていく。大企業よりは、離職率は概して高い。在籍中や退職時のトラブル(退職勧奨、退職強要、パワハラ、セクハラ、解雇)は大企業と比較するとはるかに多い。止むを得ず、中途採用を繰り返して急場をしのぐ。数年後、ある程度の落ち着きが出てきたら、また、新卒採用をする。そこで前回同様に失敗してしまう。つまり、採用→定着→育成の人事の極めて大切な柱が立たない。これでは、現在のような景気悪化の中、「新卒採用をしよう」といった機運が社内では強くならないだろう。ある意味で、採用をしないのは現実的な判断とみることもできよう。

 最近のマスディアは、新型コロナウィルスの感染拡大で景気が悪化したように報じる。確かにその通りなのだが、実際は私が2012∼14年に取材で接したエコノミストや経済評論家は「2020年以降、日本経済が数十年間、長い不況になる」とすでに指摘していた。12年前後から20年までは東北の震災復興や国土強靭化計画、アベノミクス、東京五輪などの施策や企画、イベントが並んでいたからだ。

 20年以降は、なかなか見つけられない。たとえあったとしても、その数は少なく、規模は小さいはずだ。しかも、少子化は速いスピードで進む。人口が減り続ければ、売上や利益が減る会社が増える。倒産や廃業、統廃合、採用抑制、リストラ、失業者、労使紛争は確実に増える。経済の勢いは失い、社会全体がほぼ間違いなく委縮するだろう。貧困層も増えるはずだ。

 こういう状況下では、経営に余裕のない中小企業が新卒や中途の採用に消極的になるのは避けられない。つまり、今回のコロナウィルスの感染拡大以前に、現在の流れは出来上がっていたのだ。おそらく、今後、数年以内に感染拡大がある程度止まったとしても、中小企業の新卒採用の傾向は大きくは変わらないだろう。新卒採用においては、勝ち組である一流大企業と人気のあるメガベンチャー企業がどんどんと強い立場になる。中小企業やベンチャー企業は、苦戦を強いられる可能性が高い。強い会社はさらに強くなり、弱い会社は一段と弱くなる。冷酷のようだが、これが今後、避けられない流れなのだ。

 中小企業が新卒採用を取りやめるならば、来るべき時代を先取りしたものと言える。このことを心得て新卒採用を考えたい。つまり、一部の識者が「中小企業は、大企業よりも若い世代にチャンスが多く、可能性がある」とマスメディアで持ち上げても、中小企業の雇用環境や労働条件は働く人にとっては相当に厳しくなる。仮に中小企業に新卒として入社するならば、このあたりの覚悟はしておきたい。

文/吉田典史

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