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私たちが踏み出した、新たな一歩

STORY 03
後編

将来、私は女性店長になりたい。
店長として現場仕事の職人さんと接したいと思っているんです。

八木千夏さん(22)
PROFILE
高校卒業後、大学で韓国語を学んでいたが中退。2018年3月に株式会社アクトに入社、現在は町田店に勤務する。

 人は思い描いたように生きられるものではない。壁にぶつかり思い悩む。だが、自分の意思や夢は誰かに肩代わりしてもらうわけにいかない。
 訳ありの事情を背負った若者が、ぼんやりとでも目標を見据え歩き出し、おぼろげだった自分の道が、徐々にはっきりとしてくる。このシリーズではそんな若者を紹介する。就活を経て、社会人として踏み出し、何かを見出した若者にスポットを当て、その人生にうなずき、静かに拍手を贈る企画である。

 シリーズ2回目は株式会社アクト 町田店 八木千夏さん(22)。2018年3月入社だ。アクトは工具の買い取り・販売・修理の店舗「アクトツール」を埼玉、東京、神奈川に展開。電動工具、エア工具、エンジン工具等々、建設や道路の工事現場で使用する中古、新品の工具を取り揃え、店舗販売する。年商11億円、従業員数は約80名だ。
 大学の韓国語学科に籍を置いていた八木さん、諸事情から韓国語の習得という目標を失い、窮屈感に包まれる。自分が必要される場所が欲しかった。正社員へシフトチェンジし、責任ある立場で働けば、やりたいこと、やるべきことが見つかるのではないか。そんな思いから就職活動を始めた八木さんだったが…。

自分で自分を売り込む、初めての体験。

「中退」「就職」とネットで検索してヒットしたジェイックは、数多ある就職支援の会社の中でも国の委託の団体から、職業紹介優良事業者の認定を受けていた。当時、大学を中退してチェーンのうどん店で働いていましたが、私のようなフリーターや未経験者の就職成功率が、他の支援会社と比べて高いことを謳っている。
 とりあえず話を聞いてみようとウェブサイトからからエントリーして、家に近い町田市で開催していた説明会に出向き、説明を聞きました。私の時はキャリアカウンセラーの30代の男性と一対一の面談で、私の話をじっくりと聞いてくれました。

「営業カレッジ」という研修を受けてから企業との集団面接、その後に個別面接という流れと、研修の意味も説明されました。説明を聞いてみて、この研修の大きな目的は企業の面接官に自らをどうアピールするかということだと思いました。自分から売り込む経験をしたことがなかった私は、最初は研修自体が怖かったです。
 でも、研修の受講が将来の仕事が決まるステップになるのだからと、参加を決めました。朝は5時起きして、横浜のオフィスで9時から始まる7日間の「営業カレッジ」へ。

 研修は名刺交換のエチケットや、挨拶の仕方や基本的なビジネスマナーからはじまりました。私が戸惑ったのは、自分の長所と短所を書き出すことを課題にした研修でした。自分の短所はすぐに見つかるのに、長所となるとまったく思い浮かばない。
 短所は何事にもネガティブなところで、例えばこの研修でも受けようと決めた自分を褒めてあげたくなるほど、普段の私は二の足を踏むことがよくある。やる前に諦めてしまうこともこれまで多かった。自分の短所ばかり頭に浮かび、少し落ち込みましたけど(笑)。

改めて自分を見直すことができた。

「ねえ、私の長所はどこだと思う?」困り果てた私は、高校時代からの親友に思い切って聞いてみたんです。
「千夏ちゃんはさ、よく周りのことに気をかけてくれるじゃない」
「私、アルバイトの時とか、周りの人に気をかけてもらったから、ごく当たり前にそうしているだけで……」
「考え過ぎるところもあるけどその分、周りの人のことを見て、色々と気配りしてくれると思っているよ。千夏ちゃんに感謝している人は多いと思うよ」
 親友に自分の長所をそう告げられたことがうれしかった。私にとってこの研修の一番の成果は、改めて自分を見直すことができた点でした。

 1週間の研修が終了し、同期と2日に渡って、20社ほどの企業と集団面接を行いました。自分をアピールし売り込む経験ははじめてでした。
「私は周りを見て、人手が足りないと感じたところを自然と受け持つことができます」
 周りを見て人のことを考え行動できる、そんな研修をきっかけに気づいた私の長所は、どこの会社に入っても通用すると思い、面接ではその点をアピールしたつもりです。医療関係や住宅関連会社等、個別面接に進んだのは5社で、その中に就職することになるアクトもありました。

 私はこれまでのアルバイトの経験から、お客さんと直接、関われる仕事に重点を置いていたのです。アクトは店舗でお客さんと接することができます。「八木さんが入社してくれたら、自宅に近い町田店に勤務してもらうから、通勤はJRを使って私鉄に乗り換えて、この駅かな、いや、こっちの駅の方が近いな」とか、2次面接では営業本部長が、通勤ルートまで真剣に考えてくれたり。私を迎え入れようとしてくれいる思いが伝わってきました。
 面接官の人たちはみんな明るかったし、電動工具という未知の分野の商品の知識をはじめ、学びたいことを積極的に教えてくれる環境だと確信したんです。

 建設をはじめ、工事現場で使用する工具の店舗での買い取り・販売・修理ですから、お客さんは現場の職人さんがほとんどです。高校時代にホームセンターのアルバイトで接した、材料や工具を購入しに来店した職人さんたちは、気のいい人たちばかりだったので、店舗の勤務は楽しそうだと思いました。

今の私には目標がある。

入社は2018年3月でした。店舗で働いてみると、ホームセンターの時よりお客さんとの距離感が近いことにちょっとびっくりしましたね。「買うものが何もなくても来ちゃうんだよ」と、私たち従業員と世間話をするお客さんも多い。取り扱う工具のことを覚えるのは大変ですが、接客に慣れてくるとお客さんから教えてもらうことも増えました。
「釘打ち機なんですが、このメーカーが有名ですけど、うちではこっちのメーカーがよく売れるんですよ」
「こっちのメーカーの釘打ち機は少ないエアの量で、他の工具と同じ威力で打てるんだよ」
「でも、このメーカーの釘打ち機を好んで使う職人さんもいますよ」
「この釘打ち機は、空気と工具をつなぐところが左右に振れるようなっていて、使い勝手がいいんだよ」とか。お客さんに教えてもらった商品知識を接客の時に生かしたり。

 店長目当てに来店するお客さんも多くて、「この前の現場どうでした?」「ここで買った工具が現場で活躍したよ」みたいなことから話が盛り上がる。店長は工具のことを熟知しています。初めて店長に教えられながら、分解して掃除をしたのは、丸ノコという材料を切断する時に使う電動工具です。粉まみれだった丸ノコを開き、中を掃除して切れたコードを繋ぎ直した。
「八木さん、失敗してもいいからとりあえずなんでもやってみることだね。失敗を重ねながらやり続けなければ、自分が上の立場になった時、後輩の失敗を許すことができなくなるから」これは、店長に言われた言葉です。

 正社員になる前に抱いていた窮屈な感覚は今、まったくありません。店舗で扱う商品についての知識も少しずつ増えましたし、私の接客がお店の売り上げにつながっている実感もあります。いささかほこりっぽい職場で、パンプスを履いてきれいな服装で働くわけではありませんが、私は全然気にしていません。
 実は今、私には目標があります。将来は私、女性店長になりたい、店長として現場仕事の職人さんと、接したいと思っているんです(笑)

取材・文/根岸康雄( http://根岸康雄.yokohama

前編

フリーターとして生活するのもありでしたが、私にはダメでした。
自分が必要とされる場所が欲しかったんです。

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