弁護士の仕事、人権を守ることとは
弁護士の使命とは何か。人権を守る、それが弁護士の第一義であると。では人権とは何か。担当した国選弁護のある刑事事件では、依頼人が韓国人で日本語がまったく通じない。お金の入ったバッグを盗んだ、窃盗は本人も認めていて罪を軽減してもらうために、どれだけ反省しているかを言葉で表現し、裁判長に分かってもらう必要があります。
被告人と面会した時の通訳とは、気が合いまして。日本に来て雇い止めに会い、お金がなくてお腹が空いて、つい盗んでしまった。被害者の方には大変ご迷惑をおかけしました。心から反省している、二度としません等々、言葉を練ったんです。
ところが法廷での通訳は、面会の時とは違う人が担当する。法廷で被告の韓国人は多くの言葉で心からの反省を語ったのですが、通訳は「ごめんなさい、申し訳ございませんと言っています」と、一言で終わらせてしまった。
被告人は韓国に強制送還になったのですが後日、面会の時の通訳と会った時、その話をしましたら、彼は非常に憤慨して。「そんな通訳じゃ、裁判長には何も伝わらないよ。被告人は心からの言葉を言ったのに、ひどいじゃないか!」と。
通訳の彼の言葉に、弁護士として僕も感じるところがありました。出来心でも犯罪には背景があります。食べるものがなくて空腹から弁当を万引きしたとか、解雇にあったり、病気で働けず、お金がなくて盗みをしたとか。
どんな犯罪者でも裁判を受ける権利があり、言い分を聞いてもらう権利があります。
依頼人が事件や訴訟を起こした背景や意味合いに真摯に耳を傾け、それを理解し、万人にわかるように代弁する。
弁護士が人権を守るとは、そういうことなのではないか。
僕はそんな想いを抱いています。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama