小学館IDをお持ちの方はこちらから
ログイン
初めてご利用の方
小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼントにお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
新規登録
人気のタグ
おすすめのサイト
企業ニュース

【Kazuquoママの銀座の夜話】文化を生み出す人と出会う交差点

2026.01.06

■連載「Kazuquoママの銀座の夜話」

日本人が作り上げた世界にも類を見ない街『銀座』が幕を下ろす日

皆様ご無沙汰しております。かずこです。銀座と千歳市のに拠点生活も3年が過ぎました。千歳のみなさんは、銀座と聞くと敷居が高いと話しますが、同時に銀座に敬意も払ってくださいます。しかし、私は最近、銀座の風情の変化に戸惑うことが多くなったのです。少なくとも、私が愛してきた昭和から続く銀座は、確実に幕を下ろしつつあるなあと。久しぶりに、銀座に思いを寄せるコラムを書いてみようと思います。

かつての銀座には、暗黙の『銀座ルール』がありました。例えば、銀座のクラブの床は絨毯、ソファは布張り。音を吸い、気配を包み、人の感情が尖らないための設えだった。今はどうだろう。タイル張りの床、ビニールレザーのソファ・・・街角の呼び込み。キャバクラのようなお店が増えました。企業の接待は激減し、ひとりのお客様が増え、まるでデートクラブのような形態の店もあリます。

効率と明朗さの名のもとに、銀座は、誰もが立ち入れる、誰もが分かりやすい街へと変わりつつあるのです。古いビルは次々と壊され、新しいビルが建つ。そこには、ナショナルブランドの豪華なお店が入居し、一見華やかに見えます。けれど、その多くはリートに組み込まれたり、外国人オーナーだったり、新しいビルのほとんどは、クラブなどの風営法管轄の店は入れないのです。もちろん私の店『銀座ルーム』のような看板もない怪しげな店は門前払いです!

さらに新しいビルは審査も厳しく、個人店の開業はほぼ無理。家賃は高騰し、内装費は、私が店を始めた頃の倍になった。どのビルも似たり寄ったりの風情になってきています。かつての銀座も、他に比べれば家賃も高く、高級店が軒を並べておりましたが、古いけれど小さなペンシルビルが立ち並び、世界の銀座でありながら、個人経営のバーやラウンジ、料理屋が無数に存在し、奇跡的なバランスで成り立つ、様々な人の顔が見える世界一高級な下町でもありました。

日本中から集まった『銀座で一旗あげるんだ!』『日本一の店になるんだ!』そんな人たちの情熱が、夜ごと溜まり、混ざり合う、人の野心や情熱のアナーキーな一面を持つ街でもありました。かつて昔、今はなき銀座の名店『ロートレック』のオーナに『銀座には神様がいるんだ』と聞いたことがあるのですが、『銀座を守る神様』は、ブランドではなく、人間の野心と覚悟などという人の熱量と愛情を糧にしているのだと私は思っています。

サロン文化と銀座

銀座の誕生は、日本初の鉄道開通の1872年にさかのぼります。日本初の鉄道の起点となる新橋停車場が誕生し、新橋は、商人、役人、実業家、旅人が集まる、東京、いや日本の玄関口となり、『目的のある人が集まる街』『稼ぐ人が集まる街』として発展していきます。一方『銀座』は、新橋駅界隈に拠点を構えられなかった人たちが、拠点を構え始めて生まれた場所。言い換えれば『新橋の2軍』でした。

しかし、1872年の銀座の大火をきっかけに、政府はこの銀座を『西洋式の近代都市』として再建することを決めるのです。煉瓦街、ガス灯、幅員の広い道路・・・そんな街を、新橋に負けない街にしよう!と銀座人は立ち上がり、洋服、家具、洋酒、香水、タバコなどの舶来品を扱う店が立ち並び、最新のトレンドを発信。カフェーにはジャズやシャンソンが流れ、いつしか多くの文化人が銀座に集まるようになったといいます。

なぜ文化人が銀座に集まったのかを考えてみる。過去の銀座人たちが語っていますが、新橋が『仕事』なら、銀座は『遊び』・・新橋が『現実』なら銀座は『理想』・・新橋が『用がある人が行く街』銀座は『用がなくても行く街』ここに答えがあると私は思います。

最近聞かなくなりましたが『銀ぶら』というスタイル。最新のファッション、普段食べない洋菓子、たくさんの画廊、新しい文化に触れる発見。そして、すぐに答えを求めない、銀座が紡ぐ時間の余白。食事や音楽、酒に酔いながら、たわいもないおしゃべりをする。理由や結論なんて求めなくていいということを肯定する空気を心地よく思う人が、銀ぶらをして、銀座の夜に集まっていたのです。やがてそんな人々のたまり場になったカフェーは文壇バーに姿を変え、近代の日本文化が花開いて行く礎となっていきます。

私に銀座の文化を教えてくれた、老舗文壇バー『アイリーン・アドラー』。この店もビルの建て替えで、先日店を閉じました。アイリーンアドラーが閉店すると聞いた日、アイリーンのママに会いに行ったのです。その時私は確信しました。『銀座の神様』は、居場所を失いつつあると。文化人が集う場『サロン』がまたひとつ消えたのですから。

銀座は文化を生み出す人との交差点

銀座は、ただの繁華街ではありません。国道15号線、約1キロにわたりガードレールがない銀座中央通り。休日には歩行者天国になる国道です。人の安全よりも景観やスタイルを優先。それは無謀ではなく『銀座に途中横断する人はいない』という人の矜持を信じた、銀座町内会の先輩たちの粋そのもの。先輩たちが関係省庁に懇願し、勝ち得た『日本の奇跡』と言っても過言ではないのです。

銀座といえば柳並木。フレンチの名店『ロオジエ』の店名は、フランス語で「柳」を意味するのをご存知でしたか?銀座は、細部にまで美意識が行き届いた街なのです。銀座和光の時計台よりも高い建物を建ててはいけない。こんな『銀座ルール』もあるのですから。けれど今、大資本と外資が銀座の街のイニシアチブを握ろうとしています。サロン的交流拠点としての『銀座』は空前の灯火、街は観光と消費のための舞台装置になりつつあります。

銀座へ行くには、それなりの身なりを整え、振る舞いにも気を配る。これも『銀座ルール』のひとつでした。しかし、今は、誰でもどんな格好でも歩ける『便利さ』を優先する街になっています。銀座の緊張感、いわゆる『無名性の美学』は失われているのです。

銀座で知る様々な思想や価値観

私に銀座という街を明確にイメージさせてくれた画家『金子國義先生』。金子先生の語りを聞いた日を思い出します。これがデカダンスなのではないか!と体感した日です。金子先生は人間の本音を隠さない。儚いこと、不安なこと、残酷なこと、不安定であること。そんな人間の汚れや歪み、人間の本質を否定せず表現する方。先生にお会いしたのは一度だけでしたが、明るく、正しく、効率的な生き方より、人間の核心を探る生き方を貫く先生は眩しく見えました。

現に、金子先生と会うまでは、先生の絵は不気味と思っていたのに、今は、不安だけど美しい、不気味だけど目が離せない。人間の本音の風景だと捉えている私がいます。先生の作品は、銀座の夜の余白で語るべきもの、銀座の夜に絶大な存在感を示す作品なのです。そんなことを教えてくれた金子先生も今はもういません。

銀座ルームを贔屓にしてくださり、可愛がってくださった作曲家の三枝成彰先生も、音楽の話をすることよりも、政治、言葉、男と女、人生・・・どれも本題のようで本題ではない。そんなおしゃべりを楽しみに来てくださっている。どの話にも、音楽の旋律のように明確な信念がある。そして、男の色気があるんです。先生とのおしゃべりは本当に楽しい。しかし、私の銀座的商売の心の支えでもある三枝先生も、いつかは会えなくなってしまう日がくるのです。

SNS、インバウンドがもたらした、古き良き銀座への圧力とは?

あらゆるものがネットで可視化され、予約困難店も評価サイトの数字で語られてしまう。一見さんお断りや看板のない店、いわゆる『銀座の神秘性』が失われ、全てがコンテンツとして消費されてゆく。これでは、『粋』を求める銀座人がしらけてしまうのも無理はない。『銀座人』はもう、絶滅危惧種になってしまっています。

銀座の主役が、かつての住人(常連)ではなく、通り過ぎる観光客へと変わり、目的が『文化の享受』ではなく、『記号的な消費』や『SNSへの投稿』になり、SNSから切り取った情報のみを求め、行列を作る観光客が、大半を占めるようなったことで、街全体の奥行きが薄れ、銀座で商売をする私にも、表層的に見えてしまうです。

銀座は、わからない人には、わからなくていい。でも、わかる人だけが、深く愛せる街なのだけど。それが外国人にはうまく伝わらない・・というより、私たちも伝える努力を怠っているのも問題だと思います。私は、カウンターの向こう側から、数えきれない人間模様を見てきました。夢に破れた人も、のし上がった人も、未来を語り、恋をし、裏切られ、立ち上がった人たちも。そのすべてが、銀座なのです。

銀座は、街ではなく人の想いある人たちの集合体なのかもしれません。その人たちの情熱が、いつのまにか『銀座の流儀』と呼ばれるものを育てたのでしょう。今、その流儀は消えかけています。でも、私は先人たちが創りあげた世界に類を見ない文化発生装置『銀座』が、未来も生き続けて欲しいと願うのです。

もしまた、『一旗あげたい!』『日本一になりたい!』そう本気で願う人たちが集まるなら、『銀座の神様』は、きっとまた、銀座を照らすでしょう。そして、そんな『銀座』から、新しい何か、人生の糧となる何かを享受したいと思うたくさんの日本の若者たちが、銀座に敬意を払い、少しの緊張感を持ってやってくる。『いつかは銀座で飲める大人になりたい!』と人生の目標の一つに掲げてくれような街に再びならなければ。文化を生み出す若者たちが集まり、銀座が『文化発生装置』としての機能を取り戻せるよう、私たちも銀座の命運を賭けた最後の努力をしなければならない時だと思います。

私は今日も、カウンター越しに銀座夜時間を紡ぎます。効率や資本だけではなく、たわいもない会話、理由などなく遊ぶ夜を。銀座は、まだ、なんとか人と文化と想いで成り立っています。ただの贅沢なんて言わないで、歩いて、立ち止まり、文化的視点で銀座を銀ぶらしてみてくださいな。かなりディープに掘り下げないと見えてこない時代になってしまいましたが、まだ、銀座には『銀座文化』が残っています。そんな銀座の息吹きにそっと耳を澄ませてみてください。

【過去の連載記事】
【Kazuquoママの銀座の夜話】「仕事が入ったんです!」は便利な言葉
【Kazuquoママの銀座の夜話】たわいもないおしゃべり
【Kazuquoママの銀座の夜話】上海で感じた世界の進化のスピードと日本の停滞感
【Kazuquoママの銀座の夜話】銀座の灯を消さないために
【Kazuquoママの銀座の夜話】コロナは銀座をどう変えたのか?
【Kazuquoママの銀座の夜話】私が銀座との二拠点生活に選んだ場所
巨大半導体プロジェクト「ラピダス」で問われる地方自治体のリーダーシップと市民の意識改革

文/kazuquo

自治医科大学付属病院にてリハビリテーション医療に携わったのち、 福祉住環境開発のために、住宅メーカーへ転職。その後独立し、PR会社、VIPトラベル専門の旅行会社「コスモクラーツトラベル」などを経営しながら銀座の会員制バー「銀座ルーム」のママとして日々、銀座のカウンター越しに日本社会の行く末を見守っている。特定非営利活動法人ちとせ&BEYONDの発起人も務める。

@DIMEのSNSアカウントをフォローしよう!

DIME最新号

最新号
2025年12月16日(火) 発売

来年末は、DIME本誌で答え合わせ!?来る2026年、盛り上がるだろう意外なブームを各ジャンルの識者・編集部員が大予言! IT、マネーから旅行にファッション、グルメまで……”一年の計”を先取りできる最新号!

人気のタグ

おすすめのサイト

ページトップへ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。詳しくは[ABJマーク]または[電子出版制作・流通協議会]で検索してください。