「熊本のTSMC」と「千歳のラピダス」の温度差
一昨年の12月、熊本のお客様にお招きいただいて、TSMCの半導体工場を視察に行きました。熊本県はもちろん、地元自治体も「このTSMCが熊本発展の最後のチャンス!」といわんばかりの、ものすごい意気込みというか必死さを感じました。経済発展はもちろん住民生活、これから想定される問題や課題に対する対策、街づくり計画に至るまで、TSMCの建設スピードと県や近隣の自治体の計画がしっかりシンクロしている様子に圧倒されたのをよく覚えています。
その印象が強く残っているからなのか、ラピダスのプロジェクトを間近で見ていると、何だかなというか、やっぱり北海道特有といえば語弊があるかもしれませんが、お上がすることだものね的な、他人まかせの空気感を感じるのです。
同じ北海道のニセコエリアの例を参考にしてみると、富裕層の誘致に成功したけれど、外国人が外国人を相手に商売をして、実際は思ったより地元住民の利益につながっていないことが多いと聞きます。住宅地の公示価格は高騰し、宿泊費や家賃が上昇。その影響で、以前からその土地に住んでいた住民たちの固定資産税も上昇。地域住民は恩恵を受けぬまま、思わぬ負担を強いられることになり、ニセコを離れた住民も少なくないそうです。
ラピダスに沸く千歳市も道外の資本が主導して、道外の資本にみんな持って行かれてしまうなんてことにはなるのではないか。そうならないためには、自治体と住民がメリットを享受できる仕組みを一緒に考えること。ラピダスバブルと言われぬよう、街づくり、仕組みづくりの基盤を整備することが最重要課題だと思います。
ラピダスで働く人の平均可処分所得は、千歳市民の平均可処分所得より高額になると言われています。可処分所得の差は、そのまま住民意識の差につながりかねない。では、新しいラピダスコミュニティで暮らす市民と、前から千歳で暮らしてきた住民の連携を、誰がどうやってコントロールしていくのか、考えなければならない問題が山積しているはずです。単純に比較はできませんが、私が熊本で感じた充足感は千歳市で暮らしていても感じられないのです。
千歳市独自の地方創生を
千歳市は、毎年財政指標を発表しています。他の自治体と比べても千歳市の財政は豊かです。今年は25億円ぐらい黒字になるということも耳にしました。財政基盤はしっかりしているのだから、自治体も住民ももっとアクティブになってもいいのではないでしょうか。先に述べた様々な問題に対処するためにも、ラピダスに迎合したり、振り回されることなく、地域と企業が共に発展していくためにも、首長、議会、自治体がそれぞれダイナミックにイニシアチブを握ってもらいたいものです。
市民は、そのイニシアチブの下で、経験値の低い自治体にまかせきりにせず、各々で役割分担をして街づくりに関わっていくことが求められるはすです。様々な問題やテーマごとの課題ごとにプロジェクトを組み、市民活動と自治体や地元企業を連携させて共創していくこと。知見やノウハウ、人材が足りないのなら、外部のリソースを巻き込んで活用していけばいいのです。
議員たちは地方創生と簡単に言いますが、それを具現化するためのプランも実行力もないのは周知の事実。あるならとっくに始まっているはずです。議会主導で成功した地方創生事業なんて千歳にはほとんどありません。だからこそラピダスプロジェクトに対して、行政、議会、住民、地元企業が一丸となって取り組み、千歳モデルの地方創生を実現できたらベストだと思うのです。
かくいう私も外部人材の1人です。銀座の街で培った知見、人脈を千歳市のためにどこかで活かしたいと思っています。実際、千歳のお店には全国から経営者や学者、著名人がごはんを食べに来てくれます。そんな時、できるだけ声をかけて地元議員や市の職員の皆さんもお招きしてご紹介したりしていますが、まだまだ不十分です。地元の議員や自治体幹部の方々も、そんな私を利用するくらいのしたたかさをもってお店に乗り込んできてほしいものです。
今、求められるリーダーシップとは
千歳市は歴史的にも今、転換期を迎えています。首長をはじめとする政治家には、強い信念とリーダーシップ、そして従来の仕組みを守ろうとする流れと戦う勇気が求められます。私が市民なら、そんな気概もない首長や議員、自治体の職員は、表舞台から退場してもらいたいと思います。
市民も、従来の勝った負けたの運動会的な選挙や、自衛隊の組織票に右往左往する選挙ではなく、千歳市の明るい未来を語ることができる政治家を真剣に選んで、育てるという選挙にしなければなりません。地方の選挙は、地元財界の重鎮や利権などに影響される部分が大きいと言われますが、ご存じの通り、今回の衆議院選挙では、自衛隊のお膝元である〝絶対保守〟の千歳市の選挙区も大きな影響を受けました。
これを機に市民ひとりひとりに、この街を先導する首長や議員の質を再確認する視点を持ってほしいと思います。自治体職員も政治家からのトップダウンや古い体質を守ろうする幹部に翻弄されず、新たな動きに柔軟に対応していく必要があります。市民は、政治家や自治体に興味を持ち、積極的に関わりを持って意見する。お上まかせをやめて、住民自治を取り戻すこと。そうしなければ、敵にも味方にもなり得る巨大なラピダスと共存することはできないと思います。
新千歳空港をハブにして他県の人や豊富に転がっているノウハウとつながってみよう
ニセコ、札幌オリンピック、北海道新幹線・・・そしてラピダス。そんな外的要因に浮き足立つことなく「ラピダス」を契機に、今後起こりうる問題や課題に目を向けて、交付金ありきの活性ではない、独自の手法で、地域を持続的に活性化するために真剣に議論すべき時です。何度も申しますが、この街は『ラピダス』が作るのではありません。千歳市民が創るのです。
もっと様々な人を巻き込み、いろいろな意見や考え方に耳を傾けて、この突然降ってきたラピダスというチャンスを、住民、企業、自治体が積極的に活用していこうとする流れを作ることです。そのためには、識者や成功者、専門家の知識を積極的に取り入れることも大切なスタンスの一つだと思います。
そして、巨大な黒船「ラピダス」さえもうまく取り込んでしまう地方自治のお手本になるような街づくりを、千歳市が主導して実現するんだという気概を示そうではありませんか。もちろん私も、お役に立てるようもっともっと努力します。
次回のコラムでは、千歳市の健闘ぶりをレポートしたいなと思っています。突然やってきた台風のようなおかまな私を迎え入れてくれた街・千歳市です。私を「かずこママ」と呼んでくれるやさしい「千歳市の人々」。私が幸せを感じることができるこの街に、恩返しをすべく頑張ってまいります。
読者の皆様もこれからの千歳市にご期待ください。
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文/Kazuquo
自治医科大学付属病院にてリハビリテーション医療に携わったのち、 福祉住環境開発のために、住宅メーカーへ転職。その後独立し、PR会社、VIPトラベル専門の旅行会社「コスモクラーツトラベル」などを経営しながら銀座の会員制バー「銀座ルーム」のママとして日々、銀座のカウンター越しに日本社会の行く末を見守っている。