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キリンの難産、トナカイの腫瘍、カンガルーの骨折、動物たちの生と死と向き合う動物園獣医の使命

2020.01.13

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動物園シリーズ第16回は、多摩動物公園にある動物病院の吉本悠人獣医(28・入園4年目)に動物たちの逸話を聞く。開園61年目を迎えた東京都日野市の多摩動物公園は、上野公園の約4倍の広さ。ハイキング気分で園内の動物を見て廻れる。

できる限り放っておくことが、野生動物の飼育の原則。野生動物の自然治癒能力に委ねるか、それとも治療を施すか、それを見極めるのが、野生動物を扱う獣医として重要だと痛感した吉本医師。珍しい動物に接することができる、これも動物園の獣医になった一つのきっかけだった。彼は動物園の獣医ならではのレアな体験を語る。

サイのイボ痔は20cm

井の頭自然文化園で飼育されていたゾウのはな子が、16年5月に死んだ時は解剖に立ち会った。昨年11月に多摩動物公園のアフリカゾウのチーキが死んだ時は、死因を特定等のための解剖を吉本医師獣医が担った。

「ゾウは肺と胸腔がくっ付いているんです。内臓を調べるためにそれを剥がさなければならない。ゾウの厚い皮を引っ張ってもらい、僕が肋骨の内側に入って、メスを使って肺と胸腔を剥がした。体力がいる仕事でした」

ゾウのお腹の中での作業は、草食獣特有の臭いがしたと振り返る。

体重約2トンのサイのイボ痔の治療も、ダイナミックだった。

「メスでチマチマ切っていたら麻酔から覚めてしまう」

「バーナーで焼いたハサミを使うのはどうだろう」

「映画の『ランボー』で、撃たれた傷口に熱したものを当てて、止血する場面があったじゃないか。焼いて止血するのは昔からある方法だよ」

動物病院のメンバーとは、そんな話し合いをした。サイは表面の皮が固いので柔らかい内股に吹き矢で麻酔をして、真っ赤に焼いたハサミで止血しながら、直径20㎝ほどのサイのイボ痔を素早く切り落とした。

時には治療の道具を、獣医が自分たちで作る時もある。ワラビーの母親が死んで、袋の中に残った子供を人工哺育で育てた時は、ワラビーにお母さんに合わせ、ゴム製の細長い乳首を作り哺乳瓶に装着し、お母さんの体温に近い温度に温めたミルクを与えた。

トナカイに麻酔をして、頬に出来た膿瘍を切って膿を出した後、数日置きに抗生剤を注射しなければならなかった。通常のシリンジは5CCしか入らないが、体の大きなトナカイには1回で10ccは注射をしたい。そこでシリンジを火であぶり溶かし、5CCのシリンジ2本を溶接して、10cc用の手作りのシリンジを吹き矢に仕込み、注射をした。

ワイルドさと繊細さを持つ野生動物

野生動物の自然治癒能力には、目を見張るものがあるが、家畜にはない繊細さも持ち合わせている。動物に対する治癒能力に、獣医と飼育員に考え方の違いがあると、互いの意見がマッチしない時もある。

例えばお腹をツノで突かれ傷ついた群れの中のヤクシカの場合、「群れから離さずに薬だけで様子を見ましょう」という飼育員の言葉には、一度群れから離すと再び群れに返すのが難しくなってしまう事情がある。「重症なので集中的に治療をしましょう」吉本医師は、動物病院への入院を勧めた。

ケガを負ったヤクシカは入院して、傷口を縫い完治したが、寒い時期に群れに戻したことが原因だったのだろう。戻った群れの中でこれまでのように振る舞えず、それがストレスにつながったのかもしれない。群れに戻したヤクシカはほどなく死んでしまった。

「病院から展示舎に戻すタイミングを、もう少し考えたほうがよかったんじゃないか?」そんな飼育員の意見に、「すみませんでした…」と、吉本医師は頭を下げた。もっと細心の注意が、野生動物には必要だと反省した出来事だった。

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