60~70年代ロックの、最も音がいいとされるアナログレコード、マトリクス1=通称マト1について、詳しくは過去記事を読んでいただくとして、簡単に説明する。録音されたマスターテープを元に、カッティングエンジニアが最初に切ったラッカー盤から作られたスタンパーでプレスされたレコードをさす。初版と言い換えてもいいだろう。この音質にはアーチストをはじめ関係者が耳を傾け、これで発売とするかどうかを決める。NGとなればカッティングをやりなおし、マトリクス2を制作する。
多くのレコードはマト1でOKとされるが、中にはキング・クリムゾンのUK盤『レッド』のように、A3B6、つまりA面は3回目のカッティングで、B面は6回目にしてやっとOKとなり、リリースされたアルバムもある。この場合はA1A2、そしてB1B2B3B4B5は、陽の目を見ない。結果として『レッド』の場合、A3B6をマト1と呼ぶ。つまり、“『レッド』のマト1はA3B6”という言い方となる。
別例をあげると、クリムゾンのUK盤『クリムゾン・キングの宮殿』やピンク・フロイドのUK盤『狂気』は、ともにA2B2がマト1だ。ちなみに状態のいいレコードだと、どちらも10万円級で、マト1のなかでもかなり高額な部類になる。ところが実は、『宮殿』には極レアなA1B1が存在する。NGオクラ入りプレスの流出モノ、という説もあるが真相は不明だ。ヤフオクにて、約80万円で落札されたという。運良くA1B1とA2B2を聴き比べる会に参加したことがあるが、僕はA2B2のほうがいい音だと思った。この件も過去記事にあるので、ご興味があればご覧あれ。
レッド・ツェッペリンのUK盤『聖なる館』のマト1はA2B2
前置きが長くなったが、本稿のテーマはレッド・ツェッペリンのUK盤『聖なる館』(Houses of the holy)だ。マト1はA2B2となる。相場は1万円ほどだが、ロゴ帯がついているとグンとはねあがり5万円級か? しかしこの帯を大切に保管してきた人は極稀らしく、市場にはあまり出ない。僕は偶然渋谷の中古レコード店で、ご丁寧にカラーリングされた帯付きを見つけて購入した。この色塗りはマーケットでは“落書き”という評価のようで、価格はほぼ相場の9000円だった。
このA2B2は名カッティングエンジニアのボブ・ラディックによるもので、ランアウト(レーベル外側のツルツル部分)にマトリクスとともにRL(ロバート=ボブ・ラディック)の刻印がある。音は骨太で煌めき、A面1曲目「永遠の詩」の華やぎギターには耳も眩むばかり。さすがにマト1=A2B2は凄いと思っていた。