弁護士の醍醐味、法廷での完全勝利
民事事件は、書面でやりとりする地味な仕事がほとんどです。でも法廷で「異議あり!」とか、やりとりをするのが弁護士の醍醐味で。うちの法律事務所で引き受ける案件は、裁判所の法廷に持ち込む民事事件がけっこう多い。
僕が担当したとある土地の権利をめぐる紛争では、一方は売ることに同意をした、他方は売ることに同意していないという、どちらかがウソをついている事件でした。僕の依頼人は不同意を主張する側でした。「土地を売却すると同意した文面が残っているんだ」と、相手方が主張している。依頼人は「書いた覚えはない」という主張ですが、書類が出てきたのは不利だなと僕は思っていた。
何か糸口はないか、その書類をよく見ると「あれ……」、書類に押印されたハンコの向きが、印鑑登録証の印の向きと逆じゃないですか。他の書類はすべて実印を押す時、印鑑登録の向きと同じで、依頼人本人が押したのであれば、大切な書類に逆に押すことはおかしい。僕はこの不可解な点について、法廷で相手の証人喚問の時に勝負をかけたんです。
「あなたの前でハンコを押したのは、私の代理人本人ですか」
「その通りです」
「ふつうはハンコの向きを確かめて押しますよね」
「もちろん」と、そこまで言わせておいてーー、
「この書類の印を見てください。印鑑証明書の印と逆じゃないですか」
土地売買の承諾書を突きつけた。相手はギョッとして。「こ、この印鑑証明は間違いだ!」とか支離滅裂なことを言いはじめた。大切なのは客観的な証拠と整合性です。こちらが突きつけた事実が必殺の一撃になり、完全勝訴でした。