僕が一番好きな釣りターゲットは、鬼カサゴだ。カサゴとは全く別物。東京のデパ地下に並ぶことも、まずない。釣らない限り、食べることができない高級魚だ。身はしっかり締まっていてプリプリ、淡白で上品な刺身となる。焼いて食べたい大きな頭は、コラーゲンたっぷり。干したヒレ1枚を炙って熱燗にひたせば、フグを凌駕する滋味深さ。1枚で日本酒1升分のコクが出るという輩もいる。
念願だった「鬼カサゴ」
今までこの連載で、ヒラメ、アマダイ、ハタ釣りを書いてきたが、実は真っ先に鬼カサゴを書きたかった。しかし、今年はなぜか釣れない。釣っても1kg未満のサイズで、景気のいい話にならない。鬼カサゴといえば真澄丸という鬼カサゴの達人船長は、2kgオーバーを夢クラス、2.5kgオーバーを幻クラスと称している。僕は鬼カサゴを狙って20年以上経つが最大で1.7kg、夢にも幻にもご縁がない。できれば、夢か幻を手にしたときに書きたかったが、いつになるかわからない。かといって貧果では書きたくない。そしてやっと7月22日(日曜日)、これなら書いてもいいかという釣果を得た。
同行はいつも通りの釣友・正林さん。正林さん、前週、前々週と単独鬼釣行を試み、討ち死にしている。その原因は腕ではなく、潮の速さだ。かっ飛び、ぶっ飛びの早潮で、錘が底に着かない。着いたとしても、着底の瞬間がわからない。わかっても少しでも錘が底から離れるや、錘は早潮に流されてしまう。鬼カサゴは深さ120m~180mほどの海底に生息している。錘が底になければ餌も底付近を漂わず、釣れる訳がない。こんな状況が、正林さんに連続したのだ。
仕掛けを底に沈めるための錘は、通常150号、潮が速いと200号を使う。200号で重さ750g、かなり重労働の釣りだ。ちなみにヒラメ、アマダイ、ハタは錘80号=300gを使うことが多く、かなり楽。僕は鬼を狙うときは、腰用のサポーターベルトを着ける。ギックリ腰の時に買ったものだが、まさか釣りで役に立つとは思わなかった。腰の負担がぐんと軽減される。
そういえば鬼船に乗る直前、重い道具ボックスを持ち上げたはずみでギックリ腰になり、船長がサポーターベルトを貸してくれたことがある。ギックリ腰なりたてで約5時間、よくぞ釣りしたものだ。
今回の船宿は、千葉県は外房大原港の松栄丸だ。兄弟で2船出船する。お兄さんは元高校野球児・正林さんの近隣ライバル校の野球部員で同学年、旧知の仲ながら、松栄丸の船長が同期野球児と知ったのは最近だそうだ。さらに弟さんも元高校野球児。出船前は野球の思い出で話が弾む。同好の高校野球児が船長なら、今日こそ正林さんに鬼が微笑むか? 当日はイサキ船はお兄さん、鬼カサゴ船は弟さんの担当だ。出船は3時半。ということは東京を1時に出発、ということは12時半起床という、ゴルフ党には信じられない試練でこの日は始まった。猛暑の続いた日に該当したが、港は涼しいというよりTシャツ短パンではちょっと寒いくらい。釣りの間も太陽が照りつけるも風が心地よく、早起きは三文の得、いや超早起きは三十文の得と言いたい快適な気候だった。