あなたの知らない若手社員のホンネ~東京税関/熊田みずえさん(28才、入社5年目)~
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中間管理職も知っておきたい若手社員のモチベーション。この企画は社会人3〜5年目の若手の仕事に対する率直な思いに耳を傾けた企画だ。20代の読者も同世代がどんな仕事に汗を流しているのか、興味を抱くところだろう。
シリーズ31回目は、東京税関勤務の公務員である。東京税関 調査部 統括調査官付 財務事務官 熊田みずえさん(28)入関5年目。最初の配属は成田国際空港の支署だった。制服姿で到着ロビーの検査ブースに立ち、手荷物を検査し、社会の安全を脅かす密輸品を水際で阻止する。税関職員の使命感が伝わってくる仕事だったが、通関に関して何か不正や申告漏れがあるのではと、輸入者を調査に訪れる事後調査は、人間臭い仕事である。理想と現実の狭間で揺れ動く東京税関の女性職員は、そのギャップをどう埋めていくのか。後編のはじまりである。
財務省の関税局への出向
税関研修所を経て、最初の配属は成田国際空港。入国手続きを終えた旅行者の手荷物を検査する仕事に、2年間従事しました。
財務省の関税局は、全国の税関を取りまとめ、関税制度や通関行政を所管しています。東京税関のみならず、若いうちに大きな視野で税関を見る経験をしたいと、関税局への出向を希望しました。霞が関の関税局では参事官の秘書のような仕事と、調査課調査係で、輸入事後調査部門の法令を整えたりする仕事に従事しました。
2年間の出向から戻り、今の部署に就いたのは昨年8月です。原料や製品等の貨物を輸入する時、輸入者は申告をしますが、その申告価格が適正かどうか、申告の漏れているものはないか。輸入者を訪問して帳簿等を確認する税務調査のような仕事で、上司を含め3人ほどのチームで動いています。輸入の業務に携わってそれほど間がなく、件数が増えている輸入者で、これまで調査をしていなかったところを主に訪問します。
例えば、ある輸入者は外国からバックを100円で輸入したとします。ところがバッグに使われているファスナーは、輸入者が輸出者に無償で提供したものでした。無償でも国内で仕入れた時の費用が、仮に30円かかっているとします。するとバッグの課税価格は100円に無償提供した分の費用、30円を足した130円になります。そこで「30円分を加えて、申告し直してください」と、輸入者には伝えます。
「無償提供したものなのに、製品として輸入した時、なぜ関税がかかるんですか?」という感じで、なかなか納得していただけないこともあります。「法律で定められています」という言葉は使いたくないので、輸入者が納得していただけるように説明することを心がけます。
さらに例を上げると、海外の輸出者が、国際宅配便で日本の輸入者に品物を送った場合、国際宅配便の特性から税関に申告した価格等について、輸出者側はわからない場合があります。故意か過失か、申告を誤る理由はそれぞれでしょうが、輸入者に調査に行なった際に、「あなたの会社は、この国際宅配便で受け取った品物一つにつき、輸出者に200円を払っていますね。でも通関の時に通関業者は100円で申告しています。本来200円で申告していただかなければいけません。不足の100円分の税金をお支払いください」と、輸入者の送金状況や契約書等の内容を精査した上で、その結果を伝える時もあります。
私の仕事は事後調査なので、訪問する輸入者は身構えることが多い。ところが帳簿等の調査が終わり、「こことここの点が間違えていました」と伝えた時に、「ありがとうございます」と、言われることもあるのですよ。
初めてそう言われた時は、私自身もびっくりしました。さらに「自分たちでは気づかなかった。毎年、調べに来てください」と。先方が言うその理由は、密輸のようなことはしたくないと。コンプライアンスの体制を整備し、正しく輸入申告をしたいと思っている輸入者は数多いのです。
まっ、時には調査に入った業者に、「堅いことを言わずに見逃してくださいよ」と言われ、「事実に基づいて処理をしているので、例外は認められません」と応えると、「私たちから巻き上げた税金で、お給料をもらっているんでしょう」とか、イヤミを言われる時もありますよ。