次の目標はモグラの繁殖
コウベモグラは5月に泊まりがけで静岡県の朝霧高原にモグラの飼育担当者が出向き、許可を得た公営のキャンプ場にトラップを仕掛け採集します。僕がモグラの飼育担当になって1年目に採集したコウベモグラの中に、餌を大量に平らげる個体がいました。コウベモグラ60番です。
「このモグラ、多分妊娠しているんだよ」と、前任の飼育員に告げられて。採集した時にお腹に赤ちゃんがいる個体は“持ち込み腹”と呼ばれていて以前にもいたそうです。僕は急遽、大きな衣装ケースに黒土を入れ、中に給餌の装置を配して。ある日、その飼育ケースにピンク色をした動くものがいる。モグラの赤ちゃんでした。
弱っていたので人工哺育を試みました。体長1cmほどの赤ちゃんを指でつまんで細いシリンジを使い、ミルクを飲ませたのですが。翌朝、哺育器の中で死んでしまいました。解剖してみると、赤ちゃんは親に噛まれた跡があった。多分、モグラが落ち着いて出産できる環境ではなかったので、噛んでしまったのでしょう。過去の“持ち込み腹”のモグラも、出産はしても育った実績はありません。
コアラを繁殖に成功した時は、メスのコアラは発情すると木から降りてくる習性があるので、夜間のビデオチェックをして発情の周期をつかみ、他の動物園から借りてきたオスと一緒にしました。
モグラの場合は春と秋の繁殖期になると、食欲が上がってくるような感じがした。普段は別々に飼育しているモグラですが、昨年はペアリングを期待し、タイミングを見て、秋口にオスとメスを一緒にしてみたんです。ところがオスがメスを追いかけ回して、メスの後ろ足を噛んでしまった。メスがケガをしてしまいまして。それ以来、僕もひるんでしまい、今はペアリングのタイミングをじっくり観察している段階です。
多摩動物公園の展示動物で、モグラのように野生から収集したものはほとんどいません。動物園で生まれ個体は、動物園以外の環境を知りません。ですからストレスもなく飼いやすい。でもモグラは広々といた野外で暮らしていたものを捕獲して、狭いところに押し込めて展示をしている。
多分、動物園で生まれ育ったモグラならストレスもなく人にも慣れて、今以上に展示施設の中で姿を見せ、お客さんを喜ばせることができるでしょう。
エサを改善に成功し、モグラが長生きするようになったのですから、次の目標はモグラの繁殖です。多分、成功してもパンダのような大ニュースにはなりませんが、モグラの繁殖は、僕らにとってパンダよりもっと大変なことなんです。
動物園の赤ちゃん秘蔵ショットを公開!
オランウータンとはマレー語で「森の人」という意味。野生では低地の熱帯雨林に生息しています。昨年9月に、世界最年長のジプシーが推定62歳で亡くなりましたが、新しい命の誕生で、現在多摩動物園で飼育されているオランウータンは11頭(オス5頭、メス6頭)。赤ちゃんの公開日は未定ですが、母子の健康管理のため日中の2時間ほど運動場に出る時がありますので、目にすることができるかもしれません。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama