なぜ、8割のモグラが1年以内に死んでしまうのか?
僕はもともと保育士で、保育園で臨時の職員をしていたのですが、水道局に勤める父親が、「ちゃんと就職したほうがいい」と。都の職種をリストアップしてくれて、当時は建設局の中に「動物飼育」がありました。
埼玉の田舎で育った僕は、子供の頃からイヌやネコ、ニワトリ、ウサギ等々、いろんな動物を飼っていたと、採用の試験の作文に書いたことが、評価されたのかもしれません。最初は井の頭自然文化園水生館で、希少種のミヤコタナゴ等の飼育を担当しました。多摩動物公園を希望したのは、大型の動物の飼育を担ってみたかったからで、入庁して2年後にそれが叶いました。
異動して、いきなりアジアゾウとアムールトラを担当しました。猛獣なので「鍵だけは忘れるなよ」と、鍵の管理は徹底して言われましたね。で、アジアゾウを9年、コアラとオオカミも担当して、アムールトラの飼育は今も続いています。
モグラの担当になったのは5年ほど前でした。もともとモグラは、園内の興味がある飼育員が集まり、20年ほど前から展示をはじめたもので。多摩動物公園では西日本に分布する体長12.5〜18.5cmのコウベモグラと、東日本に分布する体長12〜15cmのアズマモグラと、2種類を飼育展示しています。
モグラの飼育は面倒臭そうだ…、担当が決まって最初にそんな印象を持ちました。モグラは年単位で生きる個体が少ない。飼育が難しい特殊な動物だと聞いていましたから。確かに僕が担当になった当時は、8割方のモグラが1年以内に死んでいたんです。
ですから、展示の個体を維持する心配が常にありました。アズマモグラはすべて動物園内で採集します。
園内を探し回り、土が盛り上がっているモグラ塚を見つけると、掘り返してモグラのトンネルにトラップを仕掛けて。トラップに掛かったモグラを長時間そのままにすると、衰弱してしまうで、動物園の近くに住んでいる僕は、夜の12時近くに園内に仕掛けたトラップを見て回りました。誰もいない夜中の動物園は怖かったですよ(笑)。
モグラの食生活を改善!
しかしなぜ、モグラは長生きしないのだろうか。野生のモグラはミミズや昆虫の幼虫を主な食べ物にしていますが、動物園ではミールワームといって、ゴミムシダマシ科の幼虫を食べさせています。モグラは大食漢で胃の中に12時間以上、食べ物がないと餓死してしまうといわれていて、丸々と太ったミールワームを食べ放題にさせていた。モグラも喜んでミールワームをバクバク食べていたんです。
よく観察していると、中にはあまりミールワームを食べないモグラもいて、その個体は長生きをしている。なんでミールワームを好物にしているモグラは短命なのだろうか。そこで死んだモグラを解剖すると――
そのほとんどが脂肪肝だったのです。肝臓に脂肪がたまり、バタバタ死んでいる。他の哺乳類であればオーバーカロリーになっても、お腹に脂肪がついたりしますが、モグラの場合はオーバーしたカロリーが、すぐに肝臓に溜まってしまう。モグラは脂肪の蓄積能力が極端に低いことがわかってきたんです。野生ではいっぱい食べても、穴を掘る重労働でエネルギーを使っているのでしょう。
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