◎新幹線のストライキ対策でエネルギーを使った40代
――DIMEの読者は40代男性の中間管理職が多いのですが、柘植社長は40歳の頃、どのような働き方を実践していましたか?
「私が40歳というと国鉄の分割民営化から6年くらいたった頃です。当時はまだ国鉄時代の労使関係が残っていて、新幹線でストライキもありました。その時、私は人事部勤労課長として陣頭指揮に当たりました。もし新幹線が止まったら、多くのお客様にご迷惑をおかけしてしまいます。そこで、運転士経験のある管理職などを総動員して、運行に支障が出ないよう奔走しました。当時は体力もあったので、会社に何日も寝泊まりして全力投球と言うか、家庭をあまり顧みない時代でした。今はそんなことはありませんが。
もうひとつ、新幹線『のぞみ』が運転を開始して最高速度が時速220kmから270kmに引き上げられた際に一部の組合の運転士が、『のぞみ』は危険であるとして意図的に減速させる『のぞみ減速闘争』を行ないました。これを許せば、運転士の主観で不要な減速が行なわれ、列車運行の定時性が損なわれてしまいます。そこで弁護士と相談して、この行為を安全確認という名目で行なうサボタージュと認定し、運転士を勤務から外して賃金をカットしました。これは裁判になって最高裁まで争われましたが、会社側が勝訴し、それ以降、ほかの輸送機関でも減速闘争はできなくなりました。まさに勤労課長の頃は体力を一番消耗した時代で、全身全霊で目の前の課題に食らいついてやっていました」
――これまでのキャリアで培われた仕事観から若い人たちに望むことはどのようなことですか?
「若い人によく言うのは、言われたことだけをやっているのではなく、自分で能動的にポジティブに問題を見つけて、それを自分で考えて解決策を導き出していく人間であれ、ということ。能動的な仕事ができる人は、将来リーダーとして活躍できる人になります。それから人間性、人間力を培ってほしいですね。説得力というかコミュニケーションがきちんとできて、相手の気持ちがわかるとか、理解できるだとか、そういう人との関係がうまくできる人間力というものが非常に大事です。これはどこの会社でもそうかもしれませんが」
◎2階級上の役職の視点でものを見ることが重要
――読者の心に刻んでほしい言葉や、心に残る上司の言葉があれば教えてください。
「ひとつは『長期戦略があって日々の戦略がある』。目先でものを考えるのではなく、絶えず長期的な本質を見極めて、それで短期の計画を考える。まさに鉄道の世界がそうで、設備投資にも長い時間がかかるので、10年後、20年後をどうするかという立ち位置で本質を見て、その流れの中で今、何をすべきか考えるということです。
心に残っている言葉は『視座は高く』。わかりやすく言うと、2段階上の役職の目でものを見るということ。例えば、係長がいて課長がいて部長がいたら、係長は部長の目線で物事を考える。つまり、係長がものを考えるというのは、自分の係のことだけを考える。すると隣の係とは、ともすれば対立関係になる。課長だったらその係との対立はないけれど、今度は隣の課との対立があるかもしれない。それが部長だと各係、各課全体の最適解を出すことができます。
あとは『与えられた課題はリズミカルにスピーディーに返せ』。抱え込んだうえに出来が悪いとなると最悪。途中経過の報告も含めてスピーディーに返す。課題を与えたほうは、返事を待っているもの。できるなら、リニアぐらい速いといいかもしれませんね(笑)」
北海道・大沼でJR九州の青柳俊彦社長(右)とテニスを楽しむ柘植氏(左)。健康に気を使い、どこに行ってもスポーツを欠かさない。ウォーキングが日課で、ウエアラブル端末を装着して運動量の記録もする。
文/編集部
※記事内のデータ等については取材時のものです。