■ユートピアかディストピアか、人間次第
――AIが浸透した近未来は、働かざるもの食うべからずという概念はなくなるのですか。
「私はなくなると思います。人類の歴史の流れを考えると、農業が発生する以前は獲物を毎日狩りに行かないと餓死した。ほとんどの仕事は食べ物を得るということでした。農業が発展し収穫物の備蓄ができると、祭りのような行事や、個人の趣味に時間が持てるようになった。人類の歴史は生きるために働く時間がどんどん短縮されてきたのですから、AIが浸透することで、今後のその方向に拍車がかかると思います」
――しかし、AIが行き届いた社会が、逆にディストピアになるかもしれない。その時、先生はどんな社会を想像しますか。
「AIの浸透で生産力が上がり、増えた富を一部の人間が独占する社会になれば、今以上に貧富の格差が広がるでしょう。富を独占した一部が、大多数を奴隷のようにして、人間にやらせたほうがいい単純労働に従事させる。
あるいは、AIは大量のデータを収集し分析したりする能力に長けていますから、それを利用して、ヒットラーのような大衆を操る独裁者が出現するかも知れません。ヒットラーも、ルールに則って合法的に権力の座に着いたわけですから。いずれにせよ、ユートピアにするか、ディストピアにするかは、人間の側のチョイスにかかっています」
――汎用AIの浸透が確実視される今日、正しい未来をチョイスするために、必要なものは何でしょうか。
「AIが生み出す富の分配をどのようにするのか、そのために政治はどうあればいいか、社会の仕組みを考えられる人が、必要になってきます」