■連載/【社長の横顔】コナカ社長・湖中謙介さん
意外なことに、とんでもない人だった。『紳士服のコナカ』『SUIT SELECT』などを展開する、コナカの湖中謙介社長だ。「大学はほとんど行かず中退(笑)」「ハンバーグはデザート」といった話だけでなく、彼の言葉は学びにも満ちていた。
■「新業態は時代が要求するもの」だ
取材場所は、カスタムオーダースーツの専門店『DIFFERENCE』だった。コナカが展開する新業態で、2017年春までに全国で10店舗展開するという。
顧客が事前に着たいスーツのイメージを伝えておくと、専門的な知識を持ったテイラーが、お薦めの生地、ボタン、裏地を用意して出迎えてくれる。来店後は、体のサイズを細かく計り、袖口や襟の形や縫製の手法まで聞いてくれ、着こなし方やTPOに会わせた自分だけの一着をつくってくれる。
驚くべきは、これがお値段3万5000円~、という事実だ。湖中は「新業態は時代が要求するものです」と話す。
「昭和期、『紳士服のコナカ』のように、郊外に大型店を出して様々な既製品のスーツを吊るし、店員が販売する業態が生まれました。それまで“スーツは高い”ものでしたが、大量生産することで大幅に安く売ることができるようになったのです。次に平成の初め頃、『SUIT SELECT』のような、若年層向けで、駅の近くにある“都市型”の店舗が生まれました」
ところが、時代は「自分ピッタリ」を求め始めた。購買行動が「近所の店にあるモノの中からさがす」から、ネットで「自分がほしかった商品をさがす」に変わってきたのだ。余談だが、動画も、アイドルも、今はネットで「自分好み」を見つけ出す時代だ。お仕着せは通用しない。
「そこで、カスタムオーダーの業態に進出したのです。理由はほかにもあります。まず“ITの進化”という時代にあわせること。当店では、1着目はテイラーが細かくサイズを採寸しますが、2着目以降はスマートフォンで生地やボタンを選んで、簡単にご発注いただけます。このデータが自動で国内の工場へ送られ、宅配で商品がお客様の元に届きます。だから(人件費がかからず)大幅にコストダウンできたのです。店側の事情ですが、現在は人手の確保が難しい時代。ならば、人手がかからない業態を開発し、コストが下がった分をお客様に還元しよう、と思ったのです」
人手不足は企業にとって由々しき事態だ。だが、湖中はこれを逆手にとる方法を考えた。彼は「ないものを嘆いていても仕方ないですよ」と微笑む。
「それより、いままでになかったものを生み出す工夫したほうが、よほどいい。この業態は店舗の面積も小さくて済みます。既製品をつるすのでなく生地を置いておくだけですからね。お客様にとっていいことだらけ。必ず流行るでしょう」
事前に「こんなスーツがほしい」と要望を伝えると、テイラーが準備して待っていてくれる