「テクノロジーで暮らしの豊かさの実現と社会課題の解決を両立し、すべての人々が快適で活き活きと暮らせる社会を創る。」をヴィジョンに、2020年4月に発足した一般社団法人LIVING TECH協会。住宅関連事業者やメーカーのみならず、多業種にわたり、国内外問わず大企業・スタートアップ企業が集い、本当に心地良いスマートホームの実現を目指しています。
そんなLIVING TECH協会が2022年2月25日に「LIVING TECH カンファレンス 2021-2022」を開催。業界のトップランナーが熱い議論を交わしたセッション4の内容を抜粋して紹介します。
左から、田形梓さん(一般社団法人LIVING TECH協会 PR/リノベる株式会社 PR)、川原伊織里さん(株式会社リトルソフトウェア 代表取締役CEO)、松本融さん(株式会社AIoTクラウド 取締役副社長 兼 ビジネス開発統轄部長)、 橘嘉宏さん(三菱地所株式会社 住宅業務企画部 DX・新事業ユニット 主事)
Session4:【暮らしが進化する①「モノ×コト」がつながり暮らしが進化する】スマートホームが提供する新しい価値の最前線
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スマートホームの定義と日本における課題
IoT家電やAI技術を活用しながら、快適な住環境を実現するスマートホーム。LIVING TECH協会では、スマートホームを「1.住居内の機器や設備・各種サービスがネットワークで繋がることで、2.機能やサービスがアップデートされ、3.一人ひとりに、よりフィットした豊かな暮らしが実現できる”住環境”」と定義しています。LIVING TECH協会とリノベる株式会社 でPRを担当し、本セッションでモデレーターを務めた田形梓さんは、次のように補足します。
「スマートホームは、家の中でモノとモノ、モノとコトが繋がって暮らしをスマートに賢くするという仕組みです。その外側は『スマートライフ』に繋がっています。そこからもう少し広がっていくと『Society5.0(※1)』のような、大きなお話になっていきます。スマートホーム自体は家の中の話で、他のネットワークと繋がっていくことによりアップデートされていくものです」(田形さん)。
※1:内閣府が掲げる科学技術政策で、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムによって、経済の発展、社会的課題の解決を両立する人間中心の社会(Society)を目指すもの。
日本において、スマートホームを実際に導入している家庭はまだまだ少数派です。日本でスマートホームが普及していない要因について、橘嘉宏さんは海外と比較しながら次のように話します。
「海外ドラマ『ブラックミラー』を観ていると、住まいの中に自然とIoTや今ない技術が、上手く入っているなと感じるんです。『ロボットと会話をしながら』みたいなストーリーももちろんありますし、ピザ屋さんの配達が来ると玄関ドアにもビジョンが勝手に広がって、ピザ屋さんは部屋の外から音声だけ聞くんですけど、こちら側には顔がばっちり見えてるみたいな。
日本の住宅みたいに、いつまでもインターフォンでしか見られないみたいな感覚がそもそもないんですよね。やはり未来感だとか、この主人公が住んでる家の環境を表すためにこういうデバイスが必要だとか、ちゃんと未来の住空間に想像が追い付いてる証拠だなと思っています。
この20年間、日本の住空間は細かなところでメーカーさんやデベロッパーさんの努力で進化はしているものの、『根本的に何が変わったんだっけ?』というところがあって。住宅の間取りも、マンションだと『田の字プラン』という黄金率みたいなものがあって、その中に食洗機と床暖房が入っていてインターネットが入ったら『もう満足だろう』というような状況になっているかなと。
海外を見るとスマートロックやスマートホームがもう当たり前なのに、この20年間、日本はやはり進化できてないんじゃないかと思っています」(橘さん)。
キーワードは「オープンプラットフォーム」
橘さんが所属する三菱地所株式会社が独自に開発したスマートホームシステム「HOMETACT」は、特定のブランドやメーカーの規格にとらわれず、API連携によるオープンプラットフォームを構築している点が最大の特徴。スマートホームサービスを提供する立場でありながら、デベロッパーという立場でスマートホームを採用する側でもある橘さんは、スマートホームの導入には3つの導入障壁があると話します。
「まず、『利用するアプリがバラバラでまとめて操作ができない』という問題があります。これはお客様にも圧倒的にご不便をおかけしてしまう部分です。2つ目は、『ユーザー自身で設置、設定をお願いするパターンがほとんど』という点。この2点はやはりお客様に商品を提供するデベロッパーとして、非常に課題感が大きいと感じています。
この点に関しては、HOMETACTではログインさえすれば、どんなにIoTが苦手なお客様でもすぐに使え、住設機器を操作できるというサービスにしました。3つ目は、特に不動産会社が気にするところですが、『お客様対応は大丈夫なのか』という点です。
それに対して、今回は大手企業と組んでコールセンターを整備するなど、弊社単体だけでなく総合力で対応していこうという座組にしています。これらのポイントが日本でスマートホーム市場がなかなか広がっていかない大きな要因で、反対にこれらを解消していくと、不動産デベロッパーが圧倒的に採用しやすいサービスになっていくと感じています」(橘さん)。
また、橘さんはHOMETACTを例に挙げながら、日本におけるスマートホーム化の鍵は「API(※2)連携」にあると話します。
※2:Application Programming Interfaceの頭文字を取ったもので、プログラム同士を繋ぐ接点を意味する。
「我々は、API連携によって各メーカーのデバイスを束ねる作業を地道にやってきました。メーカーさんの協力が得られれば、Wi-Fiを経由してインターネットに繋がっているデバイスならば、オープンに繋がれる仕組みです。特定の規格で縛っていたら他のサービスと大きく変わりませんから、やはりオープンなAPI連携の座組みとしたところに大きな価値があると思っています。
我々も不動産会社で、管理実務にフィットするサービス体系も地道に構築してきたので、管理目線でも手間がかからないサービスになっています。現在、計10社の賛同を得てこのAPIに関する連携の座組と、Googleさんともアシスタント連携しており、音声操作も可能です。
今交渉中のところも含めると相当な数のメーカーさんが、賛同してくださっていて、我々も連携に向けた準備を進めています。いろんなプレーヤーとの協業によって、サービスを構築していくところは、今までにない取り組みですし、デベロッパーがそこをリードするのも面白いのかなと思っています」(橘さん)。
IoT家電は想像を超え進化、AIのパーソナライズ化がもたらすもの
株式会社AIoTクラウドで、取締役副社長兼ビジネス開発統轄部長を務める松本さんは、空調機器や調理家電、洗濯機などのIoT化は、これまでの価値観のレベルを超え進化していると話します。
「IoT家電というと『リモコンがスマホアプリになって、スマホでコントロールができるだけじゃないか』と捉える方が多くいらっしゃると思いますが、今のIoT家電はそのレベルを超えています。クラウドに繋がっていくことで、例えば高機能になってきている家電でも、簡単に使えるようにAIがアシストしてくれたり、喋ってコントロールできるようになっていたりします。
いろいろなユーザーインターフェースの多様性が出てくることで、今の人たちが自然に使えるかたちになってきているんです。AIがアシストしてくれることと、サービスがどんどん進化していくことで、家電の使い勝手みたいなことからアップデートしています」(松本さん)。
家電のIoT化が進むメリットとして、AIが学習しユーザーに合わせてパーソナライズしてくれる点が大きいと松本さんは続けます。
「例えば、使っている空調機器であれば、その人が快適だと思う環境をAIが学習し、実現してくれることも可能です。空調機器の場合は『今暑い』『寒い』といった不快な時にリモコン操作しますよね。それをAIが学習すると『今この状態であれば不快なんだ』というのを学習して最適化してくれる。使うたびに自分に最適化されていくと、一人ひとりの生活スタイルに合わせてパーソナライズされます。これが最近のIoT化の良いところの一つです」(松本さん)。
API連携で実現する住環境の快適さ
松本さんが所属する株式会社AIoTクラウドでは、三菱地所のHOMETACTとの連携も検討しており、これからオープンなプラットフォームをさらに拡大していきたいと話します。
「今、オープン指向のプラットフォームで機器とサービスを繋いでいくことをどんどん広げようとしています。それをやっていくことで、クラウド上でメーカーや業界の壁を越えてIoT機器とサービスが相互に繋がる。この図では一番下側にメーカーの機器が並んでいます。真ん中はIoT家電のメーカーがそれぞれ用意してるクラウドで、そこがAPI連携していくと、他の家電から集まってきたデータがそれぞれの上側に並んでるサービスに繋がっていき、スマートライフを実現していく仕組みです。
一つのアプリケーションで統合操作できるようになることが大きなテーマですね。例えば、シャープの場合であれば、COCOROHOMEという統合アプリケーションで、エアコンのコントロールや、連携しているシグニファイジャパンのPhilips Hueがコントロールできます」(松本さん)。
さらに、オープンプラットフォームを採用することで、生活習慣サポートにもIoT家電やAIが活躍すると松本さんは話します。
「今後進めていきたいのが、機器それぞれがクラウドで連携することで、快適な睡眠環境を実現するようなことをやりたいと思っています。入眠に最適な室温はだいたい15.5度から20度と言われていて、けっこう涼しいんですよね。起きているときは快適な温度環境になっていて、寝る時間に合わせてどんどん涼しくなっていく。
あと、照明も活動的なことをしている時には白いライトで、だんだん電球色のコンフォータブルな雰囲気を作り、だんだん暗くしていく。音、温度、湿度、照明の明るさなどの部屋の環境が、快適な睡眠という目的に対して連動して動くことで、快適なベッドルームが出来上がります」(松本さん)。
スマートライフの実現に向けて
API連携を含め、クラウド上にユーザーのデータが蓄積されることによって、さまざまな生活課題の実現に向けたサービスの提供が可能になると松本さんは話します。
「僕らが目指していくのが、機器がどんどん繋がってお客様がIoT家電を使っていただくことで、生活価値を高めていただくところ。そして、様々なサービス事業者が連携をしていくことで、クラウド上にAPIの連携を含めたデータがどんどんたまっていくと、生活を表すデータがクラウドでいろんな事業者さんが活用できるようになります。
この生活データが実態を表すようなかたちになってくるので『何時に帰ってきた』『冷蔵庫を何時に使った』『家の中の気温が何度だった』みたいなことが繋がっていくことで、生活課題が見えてくると思っています。
例えば、4人家族なのに帰ってくる時間がお父さんだけすごく遅いとか、食事の時間というのはすごくバラバラだとか。事業者の得意な目でイエナカのデータを見つめていただくことで、そういった生活課題に対してどういうサービスがあれば解決できるかを、提供できるようになります」(松本さん)。
IoT家電は人間の感情面にもメリットがある
株式会社リトルソフトウェア 代表取締役CEOの川原さんは、IoT家電やロボットを導入することは人の感情面にもメリットがあると話します。
「まず、スマートホームの主役は家電ではなく自分だという認識を持ってほしいなと思っています。そして、家族の中にもいろんなタイプの人間が住んでいるからこそ、スマートハウスやスマート家電が今後役に立ってくれるだろうなと感じているところです。
家族の中には感情、喜怒哀楽をバーっと出せる人もいれば、『うんうん、そうだね』と何かを包容力で受け止められるような人もいます。そうかと思うと『ちょっとちょっと、これ見て見て』と自慢しちゃうようなタイプもいますよね。こういうさまざまタイプが集まり、家族が家族団らんしていました。今は核家族化しています。そこでぜひ、私はIoT家電に活躍してもらいたいなと思っています」(川原さん)。
「例えば、地方から大学で大都市に出てきて、1人で生活するのってすごく不安だと思うんです。そんな時に、お掃除ロボットからお母さんがよく掃除中に歌っていた鼻歌が聞こえてきたら、そこにいるだけで『お母さんが近くにいてくれている』という気持ちになると思うんです。
うちの両親も、大好きな孫とよく似たようなロボットがいてくれたらロボットとの会話も楽しめます。ひとりでブツブツ喋っているのは独り言なんですけど、何かと会話するのは『発話』です。発話をすることは脳を活性化させます。実はブツブツというのはネガティブなことが多く、鬱にもなりやすい。そこで、IoT家電やロボットなどを導入して、会話のキャッチボール相手にIoT家電が利用できるかなと思ってます」(川原さん)。
また、川原さんは感情と家の中の場所は繋がっており、AIやIoT家電は人の感情のサポートにも役立つのではないかと話します。
「実は、家は場所ごとにいろんな感情と繋がっています。例えば、リビングはコミュニケーションの場として繋がっている。そこで何かちょっとネガティブな感情、『ちょっと会話の雰囲気が悪いな』とか、あるネガティブワードだけをIoT家電が覚えていて、そうなった時にちょっと特殊な風を流してあげると、『あれ』って言って、急に話題や会話が変わることがあります。スマートホームがいろいろと人の感情に合わせていくことで、新しい家の作り方ができるんじゃないかと思ってます」(川原さん)。
「スマートホームのカスタマイズは、どうしても物理的に解決しようとしてしまうことが多いので、川原さんみたいな観点を持たないと、それぞれにフィットした形のスマートホームにならないなと感じています。物理的なもの以外のアプローチを、いかにいろんなプレーヤーと作っていくかが重要なんだなと思いました」(橘さん)。
「部屋とその感情が紐づく話がすごく面白いですよね。親の部屋だとちょっとキリッとした緊張感があるとか、風呂場はすごくリラックスできる場だとか。その雰囲気になった時に、AIが察知する形になるんでしょうね。その時に風とか明かりとかで少し気付きを与えていくことで、家族の暮らしが少しアップグレードして、暮らしやすさが実現できてくるんだろうなと思いました」(松本さん)。
「これからオープンプラットフォームというところに繋がっていくことで、皆さんの豊かな暮らしが実現できる。今回のお話で、その部分に希望が見えたのかなと思います。ありがとうございました」(田形さん)。
セッションの模様は、2022年4月12日~2022年5月16日まで期間限定でアーカイブ配信します。
文/久我裕紀