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オンライン遠隔医療、リアルタイムモニタリング、センシングによる早期検知によって実現する「ハウスホスピタル」への期待

2022.04.09

「テクノロジーで暮らしの豊かさの実現と社会課題の解決を両立し、すべての人々が快適で活き活きと暮らせる社会を創る。」をヴィジョンに、2020年4月に発足した一般社団法人LIVING TECH協会。住宅関連事業者やメーカーのみならず、多業種にわたり、国内外問わず大企業・スタートアップ企業が集い、本当に心地良いスマートホームの実現を目指しています。

そんなLIVING TECH協会が2022年2月25日に「LIVING TECH カンファレンス 2021-2022」を開催。業界のトップランナーが熱い議論を交わしたセッション3の内容を抜粋して紹介します。

右から藤本小百合さん(イーソリューションズ株式会社 副社長執行役員)、河千泰 進一さん(株式会社リンクジャパン CEO)、藤井省吾さん(株式会社日経BP 総合研究所副所長 メディカル・ヘルスラボ所長)

リモート参加の武藤真祐さん(医療法人社団鉄祐会 理事長、株式会社インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役会長)

セッション3【可能性が広がる③住まいが病院になる】センシングとモニタリングで実現するハウスホスピタル

ダイジェストムービーはこちら。

Opening sessionの模様はこちら
セッション1の模様はこちら
セッション2の模様はこちら

オンラインを活用して家の中の安全安心を向上させ、社会的コストの削減を

オンラインによる遠隔医療とリアルタイムモニタリング、センシングによる早期検知によって、家が病院になる「ハウスホスピタル」という概念が現実になりつつあります。そんな中で住宅における疾患発症の早期発見に取り組むTECH企業やデジタル活用で新たな医療モデルの構築に取り組む医師を招き、これからの在宅医療について考えました。

藤本小百合さんの会社、イーソリューションズは、2017年から住宅における疾患の早期発見に取り組んでいます。「人生100年時代の新しい家の役割」として、疾患の早期発見の重要性を次のように語りました。

「新型コロナウィルスのパンデミックによって、医療における家の役割はさらに高まっていると考えています。2022年2月には54万人以上まで自宅療養者が増えています。ショックだったのは、自宅療養中に亡くなった方の年齢の割合を第5波で見ると、50歳以下の現役世代でも71パーセントもいたというデータです。家の中でいかに人の安全安心を見守るかが、とても重要になってきています」(藤本さん)

「在宅医療では疾患の早期発見が特に重要です。脳卒中の事例では年間で約30万人の発症者がおり、発症後になんらかの後遺症が残る人が過半数いるので、医療費や介護費が大きい非常に重要な疾患と考えています。脳卒中はt-PA療法というつまった血栓を薬で溶かす治療法がありますが、発症から4.5時間までしか投与できないという制約があり、本来は投与できる患者の5パーセントにしか治療ができないという課題があります。

病院は32都道府県131施設で高度な医療施設が整っています。緊急搬送の救急車もコロナ前のデータでは、全国平均約40分で病院に運ぶことができます。4.5時間という時間の制約は、発症から2時間以内に病院に届けられるかどうか、というところがカギになっています。

脳卒中が発症するのは家の中が79パーセントで、心疾患の心筋梗塞は住宅の中で67パーセントが起きています。家の中で溺死する人は約5000人で転倒や転落も年間約3000人が亡くなっています。これを自動車の交通事故と比較すると、1996年には年間の死亡者数が交通事故と住宅での事故が両方とも1万人ぐらいでした。それが交通事故は年間4000人以下まで減っていますが、住宅の中での事故で亡くなった方は増加傾向にあります。

交通事故の死亡者の低下は、エアバッグの普及やABS(自動ブレーキ)の普及など、自動車メーカーの技術改善と開発によると考えています。そこで住宅の中でも同じように、住民の安全安心を守る仕組みが重要ではないかと研究開発に取り組んでいます」(藤本さん)

疾患の早期発見のシステムとしては、スマートホーム化した住宅の中に非接触センサーを設置して、住人の心拍数や呼吸数などのバイタルデータを常時モニタリングし、心拍数が1分間で50回になるなど明らかに異常な数値を示した時、コールセンターに自動でつながる仕組みになっているといいます。コールセンターは住宅に設置したスピーカーを使って声掛けをし、明らかに異変がある場合はコールセンターを通じて緊急通報を代行、そこで救急車が住宅に到着したらスマートロックで遠隔で開錠、搬送が終わったら施錠します。

このようなスマートハウスの仕組みが普及して疾患の早期発見が可能になった場合、医療費、介護費、個人の労働損失額、企業の生産性などを加味して試算すると、約3兆円の社会的コストの削減が可能になるといいます。そして同じような仕組みは、住宅だけでなく介護施設や宿泊施設などにも展開できます。一方でスマートホーム化の課題もあるのだそうです。

「自動車とテクノロジーは結びやすく、テクノロジーを使って安心安全を守る発想が自然と生まれやすいんですね。IoTが進む前は、住宅の中でテクノロジーを使って安心安全を守るというコンセプトは結び付きにくかったんです。そして住宅業界はハウスメーカーのシェアが4~5パーセントで、地元の工務店さんなどが住宅を作っているという業界構造があります

トヨタのようなリーディングカンパニーが投資をして開発をすると業界全体に浸透していく業界構造と違い、住宅メーカーが取り組んだから進んでいく、という構造になっていないんですね」(藤本さん)

オンライン疾患管理システムで、患者に適切な治療を実現

武藤真祐さんのインテグリティ・ヘルスケアは、「YaDoc」と呼ばれるオンライン疾患管理システムやPHRプラットホーム「Smart One Health」などを運用。すでに約3500の医療機関で導入が進んでいます。これらはデジタルを活用して医師と患者の円滑なコミュニケーションをし、的確な診察を行うためのシステム。

「患者が伝えてくる情報を電子化する「ePRO」というものが世界中で広がり始めています。例えば心不全の患者を診る時に聞く問診内容と、ぜんそくの患者に聞くことは同じではありません。患者の持っている疾患に応じて問診を先に聞いておくか、定期的に聞いておけば、状態の推移が医師にもわかります。そうすれば単なる把握だけでなく、これから起こることも予測でき、必要な医薬品なども含めての介入がより適切にできます。

我々のシステムでは患者さんの疾患に応じて問診を繰り広げるシステムがあり、それをビジュアル的に医療従事者が見ることができます。もうひとつがモニタリングで、ひとつの例ですがパーキンス病という体が震えてしまう病気があります。いい薬剤があるのですが、種類が多く、飲むタイミングも重要です。

通常、医師は患者に症状などを聞くわけですが、なかなか正確につかむことが難しい。そこでApple Watchを使って身体の震えやほかの状態を検知して合わせることで、よりよい医療的介入ができるのではないかという臨床研究を行っています。

「Smart One Health」というシステムは、生活習慣病に特化したものになります。採血の結果や食事の内容などを共有しながら、測定できる機器とデータのほとんどが連携できます。生活習慣病は行動変容が重要なので、可視化してデータを共有できるため、自己管理のモチベーションを上げるような機能もあります。この上でオンライン診療もできるシステムになっています」(武藤さん)

武藤さんは、ほかにも展開している3つのサービスやシステムを紹介。受診勧奨・治療継続支援サービス「Smart One Clinic」は、PHR(Personal Health Record)と実際の診療を組み合わせる一気通貫したアプリと医療法人をつなげるシステム。

法人などで導入すれば、従業員ならオンラインのため待ち時間が少なくてすみ、オンライン診療の方が少し安いため費用も下がります。企業は保健管理をしなければいけないし、社員の健康改善に努める必要があり、健保は医療費の削減が大きなテーマとなっています。そのどれに対してもバリューを提供できるのだそうです。

そしてPSP(Patient Support Program)と呼ばれているプログラム。今まで診療は医師をサポートするのがメインでしたが、最近は患者をサポートすることが重要だという流れが世界中で起きています。PSPはいろいろな疾患で提供されていますが、そのひとつに乳がん治療があります。

目的はがん治療のさらなるアウトカム向上ですが、同様に医療従事者の負荷軽減も考えられているのだそうです。患者、医師、看護師、薬剤師がどういう形で情報を提供・共有すればいいのかを、ひとつずつ考えてシステム構成されています。

臨床研究支援パッケージとしてDCT「Decentralized Clinical Trial」も展開しています。本来なら通院すべき患者がさまざまな状況で家にいて、治験に参加できないという課題があります。それを武藤さんは、オンライン診療の仕組みを取り入れつつ訪問に特化して、看護師が訪問する形で支援をしています。実際に人が行ったり、オンライン診療を行うモニタリングを使うことで、今までのように病院に行かなくても治験ができる仕組みを提供しています。周辺サポート機能も充実させ、運用の手間も最小化しているそうです。

住宅をスマホのようにアップデートし、在宅医療性能を向上させる

河千泰 進一さんが8年前に立ち上げたリンクジャパンは、スマートホーム専門の企業。住宅の全てをリンクする「Home OS」的な発想で事業展開し、さまざまな企業と連携することで家を快適にしていきます。

医療分野では、時間外救急プラットホームの「ファストドクター」と「医療サービス付きスマートホーム」の実現に向けて提携。アプリから簡単に医師とオンライン診療や緊急往診の依頼ができるようになります。さらにスマホのように、住宅もアップデートできるようにすることを掲げています。

「コロナ禍で生活様式が変化して、住宅の在り方が問われる時代になりました。そのために家の中をすべてリンクした上で、ライフスタイルに合わせてアップデートします。車も『テスラ』のようにアップデートできますし、住宅も同じような機能があっていいじゃないかという発想です。家が簡単にアップデートしてスマートホームになって、介護施設や病院にもなりえます。そのために連携だけじゃなく自社製品の開発にも力を入れています。

たとえば『スマートナースコール』は、Wi-Fiと電源があれば簡単に自宅にナースコールを設置できるデバイスで、ワンタッチで連携先の24時間のコンシェルジュや医師・看護師とビデオ通話でき、いまは病院にも導入されています」(河千泰さん)

リンクジャパンは、これまで機器と家電の連携がメインでしたが、現在はサービスの連携に力を入れているそうです。ホームセキュリティ、家事代行、蓄電池・充電器、課金システム、オンライン医療。

これがひとつのプラットホームでサービス提供できるようになれば、家で住人が何時に照明を停止して何時にカーテン開けるなどの生活のデータをログとして取れます。ベッドのセンサーから心拍数や呼吸数などのデータも収集できるので、そういったものをオンライン診療のデータに生かすことができるのです。そういったソリューションが簡単に提供できるようになりつつあり、すでに大手ハウスメーカーなどに一部には導入されているそうです。

「住宅メーカーのシーラさんとシニアテックマンションを開発しました。『スマートナースコール』、環境センサー、心拍数・呼吸数が取れる電動ベッドなどを設置し、アクティブシニア向けの賃貸マンションにアップデートして24時間見守り付きの住宅として販売し、好評を得ています。

入居時は通常のスマートマンションで、ベッドも電動リクライニング式のベッドとして利用できます。寝落ちしたらセンサーが検知して、自動で照明を消してカーテンを閉め、ベッドも平らにできるようなAIによる連動機能も用意しています。人気のひとつとして、シニア向けの見守り付きマンションとは前面に押し出していなくて、未来的なスマート住宅というように案内すると、シニア層には喜ばれるケースがあります。

マンション大手のプレサンスさんとは、二世帯住宅にスマートホームをプラスして、見守りサービス付きのマンションを開発・導入しました。お子さん世代は、『Amazon Alexa』や音声スピーカーで家電を操作し、身体が弱っている両親は何かあれば『スマートナースコール』で、医師や看護師と通話できるサービスを提供しています。

これらの事例とは違いますが、ある娘さんがお母さんを介護している住宅に、弊社のサービスを導入したケースがあります。それまでは介護する娘さんも疲れていて、なかなか家から離れられなかったそうです。サービスを導入したら、スマホ一つで外からも中の様子やコミュニケーションが取れるので、介護が非常に楽になったという言葉をいただきました」(河千泰さん)

新しい在宅医療と、早期発見のためのスマートホーム化の課題

住宅で早期発見する仕組みは、治療ではなく予防になるので医療費の対象ではなく個人の負担になります。本当に困っている人や必要としている人は、現在はハイエンドなスマートホームではなく、普通の住宅に住んでいることのほうが多いのです。スマートホームが住宅の基本仕様になるためには、様々なハードルがあることは事実。

「基本仕様にするためにはハウスメーカーなどのサプライヤー側の課題として、バイタルセンサーの設置位置や配線が個別設計を前提とした注文住宅を対象にしていますが、それをリフォームパッケージのような形で標準化して、簡単に展開ができるようにすることが課題だと思います。

この課題をクリアするにはサプライヤーだけでは難しいので国の支援も重要です。バイタルデータをモニタリングする機器は国内外の市場に出始めていますが、どのぐらいの精度で情報が収集できるかなどの国際的な規格がありません。標準化した規格をクリアした製品を住宅へ導入したい時に国が補助金で支援をする。そういった国全体の後押しも有効だと思います。脳卒中の事例でいうと1世帯当たり介護も含めると1千万円かかるという試算もあります。それがかかる前に未然に防ぐという意味で投資をする考え方もあると思います」(藤本さん)

「4月の診療報酬改定でオンライン診療に対しての点数が以前より上がりましたし、コロナ禍で規制緩和したものを多くはそのまま継続できるので、4月からオンライン診療はさらに広がるとみています。データを用いて診療することに対しては、まだまだ十分な評価がなされていないです。

データを統合して新しい医療を行うことに対しての加算というところが今後目指していくところかなと思います。そのためにはデータを増やしていかないといけないし、漫然とデータをとっているだけでは診療報酬の性質上、点数を上げるのは難しいので、医療的なことや社会的なことに少しテーマを絞り、そこでの評価をみて診療報酬を考えるのがいいのではと思います」(武藤さん)

「利用者、住宅メーカー、家電メーカー、医療業界関係者、こういった方々がひとつのプラットホームで同じサービスを利用することによって、お互いが連動・連携できるようになります。いまの会社を立ち上げる前は予防医学業界にいたこともあって、IoTとデータのポテンシャルは高いと感じています。

スマートハウスで収集したさまざまなデータをうまく活用することにより、安心安全につながるような家づくりが実現できると思います。いかに簡単に導入できて、ハウスメーカーや住人に喜ばれるようなサービスをスピ―ディーに構築し提供できるかが、広がるカギと考えています」(河千泰さん)

 

セッションの模様は、2022年4月12日~2022年5月16日まで期間限定でアーカイブ配信します。

文/久村竜二

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