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プロ野球選手の暴力事件と倉庫会社のアルバイトで味わったパワハラが似ていると感じた理由

2021.08.27

■連載/あるあるビジネス処方箋

今回は、プロ野球選手の暴力事件と会社員のパワハラについて私の考えを述べたい。先ごろ、日本ハムから巨人に電撃加入した中田翔内野手。日ハムでは、後輩選手への暴力行為で無期限の出場停止処分を受けていた。それが急きょ、球界の盟主・巨人へ移籍。

いきさつや事情は、すでに多くのマスメディアで報じられている。私は、会社員が直面するパワハラと照らし合わせて考えたい。

マスメディアの報道は中田選手を個人攻撃しているかに見える。もちろん、暴力は否定されるべきだが、該当者は彼だけなのだろうか。私は、そうではないと思う。例えば、YouTubeでは様々なプロ野球の元選手が高校時代や現役の頃を語っている。「監督から怒鳴られた」「バットで体を殴られた」「コーチから顔を殴られた」「先輩から蹴りを入れられた」「先輩からリンチの日々」と笑いながら話し合うシーンがいくつもある。ほぼ全員が、当たり前のように暴力行為を語る。

発言の多くは本人が顔出しで、加害者や被害者の実名を語る以上、おそらく事実なのだろう。だとすると、中田選手の行為だけが問題視されるのはなぜか。「度が過ぎた」「一線を越えた」からだろう。

なぜ、一線を越えたのか。中田選手の高校やプロでの監督やコーチなど指導者がその都度、厳しく対応してこなかったから、本人は「ごく普通のことをしている」と受け止めていたのではないか。あの才能と実績を見れば、指導者が甘くなるのも無理はない。日ハムのように他に強力な打者が少なく、中田選手に頼らざるを得ないとなると、監督やコーチは強くはなかなか言えないだろう。

実は監督やコーチも若かりし頃、程度の違いはあれ、チーム内で同じ行為を見過ごしてきたのではないか。高校やプロの現役の頃、「暴力事件をまったく経験したことがなく、今回初めて見聞きした」ことはさすがにないだろう。

私の観察では、組織の中の暴力事件はある日突然起きるのではない。それが公然と行われる、あるいは黙認される文化や風土、世論、空気がある。その中で、力のある人は「誰も自分には強くは言えない」と確信し、暴力を繰り返す。ある意味で損得を計算し、自分は損害を受けないと確信し、立場の弱い人を殴り、蹴っている可能性が高い。だからこそ、監督やコーチには暴力をはたらかない。それでも、ほとんどの監督やコーチが厳しく言わない。本人は味をしめてますます、過激になる。

この一連の構造は、企業社会でも見られる。例えば、私がかつて勤務した会社でも、部署の中軸になっている女性社員(30代前半、女性、一般職)が職場のルールを守らなくとも、上司(40代後半、男性、部長)は注意すらしなかった。女性は時に同僚に暴言を吐いたり、意にそぐわないと泣き出し、仕事を放棄した。それでも、上司は何も言わない。むしろ、ご機嫌をとる。暴言はその後、エスカレートした。実は、この上司も男性の部下には暴言をはいていた。女性には、一切言わない。公平といった意識が希薄なのだ。

暴力は、連鎖反応する。組織の中の暴力は、誰かが「GO!」サインを出しているものだ。本連載の『倉庫会社でのアルバイト経験を通じて伝えたい「フリーランス」という生き方の真実』『倉庫会社でアルバイトをして見えてきた「パワハラ」を生み出す構造』をご覧いただきたい。そのあたりの構造が見えてくると思う。

今回のマスメディアの報道の特徴は、過去の指導者らを問題視していないことだ。理解ができないのは、「不偏不党」「公正中立」「社会正義の実現」を社是に掲げているマスメディアが、中田選手の活躍だけを盛んに報じることだ。

メディアの責任を自覚しているならば、暴力行為の背景や構造も伝えるべきだ。組織の中の暴力は、構造的に生み出される。それが連鎖反応する。そのことの怖さを心得ているならば、あいまいにすべきではない。最近、ホームレスを茶化したり、攻撃する人の言動が問題視された。こういう暴力と今回の事件、そして会社のパワハラの背景で起きていることは重なるものが多い。暴力をする側を批判するだけでは、必ず形を変えて繰り返される。

文/吉田典史

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