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倉庫会社でアルバイトをして見えてきた「パワハラ」を生み出す構造

2021.08.13

■連載/あるあるビジネス処方箋

前回、「倉庫会社でのアルバイト経験を通じて伝えたい「フリーランス」という生き方の真実」では、この2か月間で大手企業の倉庫でアルバイトをした経験を書いた。ぜひ、その記事をお読みになっていただきたい。ここでは、短時間正社員(アルバイト5人の上に立つ3人の社員)の特に女性からパワハラに近いことを受けていたと説明した。だが、今にして思うとこの職場は楽しかった。全般的に、いい人が多かった。感謝の思いのほうが強い。

人事のあり方を考えるうえで参考になることがあったので、そのポイントを書いてみたい。これらは、ほかの業界や職種、正社員や非正規といった区別を越えて該当する場合があるのではないか。

「言った!」「教えた!」―。これは、短時間正社員たちが私に言う言葉だった。例えば、荷物の仕分けにはルールがある。うろ覚えのままで対応しようとすると、「この前、(自分が)言っただろうよ」と大きな声で怒鳴る。確かに問題は私にある。怒鳴るのはともかく、注意を受けるのは当然だろう。

だが、「言った」という内容が記憶にないのだ。何度思い起こしてもない。そこで聞き直すと、「しょうがねぇなあ」といった表情で教えてくれる。ありがたいのだが、確かにその時がはじめてなのだ。本人はそれ以前に何度も教えたと思い込んでいるようだった。また、短時間正社員数人の中で教え方や教える内容が統一されていない。ある時、Aの教えに従うと、Bが怒る。ところが、AとBがそのことで話し合うことはしない。

「言った!」は、2か月間で20数回はあった。私は物忘れが激しくなる年齢には早いかもしれない。現場責任者である短時間正社員の数人は3時間という短い労働時間の中で大量の荷物を仕分けすることに追われる。何を教えたか、教えていないかを記憶する余裕がないのかもしれない。私が「忘れた」としておくと丸く収まるように見えたから、「忘れた」ことにしておいた。

なぜか、女性のアルバイトには別人のように接する。私と女性への言葉づかいや態度がまったく違う。男性の短時間正社員は、「ちゃん」づけをして懇切丁寧に教える。限りなく、マンツーマン指導だ。怒ることもしない。公平に接するといった意識がほとんどないように見えた。しだいに男性の短時間正社員と女性のアルバイトたちの間でコミュニティが出来上がる。私は孤立し、怒られ役となる。

実は、このような経験が豊富だ。16歳で高校を中退した。それ以降、5年間ほど、運送会社やイベント運営会社、コンビニエンスストア、スーパーでアルバイトをしていた。ほとんどの職場の男性のリーダー(アルバイトのトップもしくは短時間正社員)は、絶対に女性には厳しく言わない。毎度言うのは、男性。最年少で、最終学歴・中卒の私は怒られ役が多かった。

私の観察では、アルバイトが多く、単純作業で力仕事の職場にはホワイトカラーのような職場とは異なる論理がまかり通っている。つまり、人間の本性とか、素の部分がむき出しになる傾向がある。その象徴が「怒鳴る」「ののしる」「罵倒する」「けなす」「馬鹿にする」行為だ。それはエスカレートすると、「殴る」「蹴る」になる。ある意味で素直で、正直な人が多いと言えないか。

ただし、前述の職場では全員の短時間正社員がこういう姿勢ではない。例えば、大学4年の男性は私への教え方がとにかく上手かった。特に説明の仕方やタイミングだ。他の短時間正社員よりも5ランクは上に見えた。なぜ、こんなに上手いのだろうと不思議に思ったほどだ。私は毎回、感謝していた。

おそらく、この倉庫会社も正社員数が2000人を超えるのだから、本社や支社はホワイトカラーが大多数を占めているはずだ。私がアルバイトをした最前線の「現場」に限ったことのはずだ。この認識を前提のうえで考えると、次のことが言える。

①アルバイトなどが多数を占める職場(単純作業で、力仕事が多い)は得てして定着率は低いが、その中で長く勤務すると、短時間正社員になるケースがある。

②短時間正社員は、「教える」技術を学んではいない場合が目立つ。まず、現場で仕事をさせてそれについて1つずつ、何かを言うパターンが多いが、時に感情的になる。

③公平といった意識が弱く、チームビルディングを心得ていない。結果として、アルバイトが辞める。

④短時間正社員は残り、アルバイトはまた辞める。この繰り返しとなり、双方の仕事の経験やスキルに大きな差が生じ、ヒエラルキーが強くなる。

⑤短時間正社員からアルバイトへのパワハラが発生しやすくなる。

実は、①~⑤はホワイトカラーの職場でも見られる。特に中小企業やベンチャー企業(メガベンチャーを除く)だ。大企業でも時折、見かける。新卒時の入社の難易度でA級(上位3社)、B級(4位~20位ほど)、C級(20位~)と3つにはわけられるとすると、B級とC級で多い。

つまり、会社や各部署の組織化が未熟で、十分には機能していないケースだ。私の最近の事例では、5年ほど前に約3年間、業界紙で仕事をしたが、20代の担当者も言動にパワハラが目立つ。おそらく、こういう人を作る構造が社内にはあるのだろう。その構造が、①~⑤の流れだ。アルバイトにしろ、正社員にしろ、定着率が低いと、特定の人に情報、権限が集中し、いびつな構造になり、そこからパワハラが生まれやすくなる。

ただし、私は期間限定のアルバイトであったからなのかもしれないが、厳しく言われても怒鳴られても、おもしろかった。また、このようなところで働きたいと思った。雇ってくれたことに感謝の思いでいっぱいだ。

文/吉田典史

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