日本語では、普段使いの言葉と敬語で表現が異なるケースが多く見られます。では、「ありがとうございます」という言葉は、敬語として使えるのでしょうか?現在形と過去形の違いや言い換え表現に加え、実際に使える例文も紹介します。
ありがとうございますは敬語として使える?
誰かにお礼を伝えるとき、「ありがとうございます」という言葉がよく使われます。とても丁寧な言葉ですが、敬語表現に当てはまるのでしょうか?ここでは、「ありがとうございます」の表現について掘り下げて見ていきましょう。
感謝を伝える表現で用いられる
「ありがとうございます」は、誰かに対して感謝やお礼の気持ちを伝える『ありがとう』に、補助動詞の『ございます』を組み合わせた表現です。
『ありがとう』は、形容詞の『有り難い(ありがたい)』から来ています。『有り難い』はもともと『有ることが難しいこと』、つまり『めったにないこと・珍しいこと』を意味する言葉です。これがもとになり、めったにないことへの感謝の言葉として、『ありがとう』が使われるようになりました。
目上の人へも利用可能
「ありがとうございます」のように日常的に使用している表現の場合、それを目上の人にも使ってよいのか、疑問に思う人もいるでしょう。
『ありがとう』という言葉は、単体で使うと敬語にはなりません。しかし、補助動詞の『~である・~です』の丁寧語である『ございます』を組み合わせることで、敬語として使えるようになります。
日常生活だけでなく、ビジネスシーンで上司に使ったり、接客中にお客様に対して使ったりしても、問題ありません。何か感謝を伝えたい状況が出てきたら、「ありがとうございます」という言葉で気持ちを伝えましょう。
ありがとうございましたとの違い
感謝の気持ちを伝えたいとき、「ありがとうございます」と言うこともあれば、「ありがとうございました」という表現を使うケースもあります。この二つの違いは、どのような点にあるのでしょうか?
現在形と過去形の語尾の違いのみ
「ありがとうございます」と「ありがとうございました」の二つの違いは、現在形と過去形で語尾が違っていることのみです。基本的には、過去の出来事に対するお礼は「ありがとうございました」、現在進行中の出来事に対するお礼は「ありがとうございます」、と使い分ければ問題ありません。
例えば、以前にお世話になった経験があり、後日その相手に会ったときには、お礼したい対象の事柄は過去の出来事のため、「先日はありがとうございました」と過去形を使います。会っているときに、その場で何か贈り物をいただいたなどの場合には、現在形である「ありがとうございます」を使うとよいでしょう。
関係が終了する印象も
「ありがとうございました」を使う場合、過去の出来事に対する感謝の気持ちを伝えるのが一般的です。しかし、状況によっては現在形を使った方がよいケースがあります。
例えば、学校を卒業するとき、先生にこれまでの感謝を伝えるために「ありがとうございました」とお礼を言うことがあるでしょう。過去形での表現は、このように『今まで続いてきた関係が終了する』ときにも使われます。
お別れの際に使うイメージがあることから、過去形を使うことで関係性に区切りを付けようとしていると、相手に捉えられるかもしれません。今後も付き合いを継続したいという場合には、あえて過去形ではなく「ありがとうございます」と表現してもよいでしょう。
現在形は今感謝していることを強調
「ありがとうございます」と現在形で伝えると、今まさに感謝していることを強調できます。その場で起こったことに対するお礼はもちろんのこと、その後も感謝が継続するケースにも使える表現です。
例えば、講演会などのあいさつでは「本日はご来場いただき、ありがとうございます」と現在形を使います。これは、『来場してもらった』ことは過去の出来事ですが、この後には『講演会を聴いてもらう』という出来事が続くためです。
現在形を使用することで、続く事柄に対しても感謝するという意味が込められます。
より感謝を強調するなら
「ありがとうございます」という言葉を単独で使っても、感謝の気持ちは伝わるでしょう。しかし、場合によっては、感謝を更に強調したいときがあります。では、どのような表現をすれば、感謝の気持ちをより強く相手に伝えられるのでしょうか?
頭に「誠に」などを付ける
頭に『誠に』などの言葉を付けることで、感謝の気持ちを強調できます。『誠に』は、『本当に・じつに』という意味を表す副詞です。「誠にありがとうございます」という表現にすれば、感謝の気持ちをより伝えられるでしょう。
他にも「大変ありがとうございます」「本当にありがとうございます」などが感謝の気持ちを強調する表現として使用できますが、『誠に』の方がかしこまったイメージです。また、頭に『どうも』を付ける表現もありますが、少しくだけた印象になるため、ビジネスシーンではあまりふさわしくありません。
何に感謝をしたか付け加える
「○○の件、ありがとうございます」「○○いただき、ありがとうございます」など、何に感謝しているかを付け加えることで、感謝の気持ちを強調できます。内容は長々と書くのではなく、シンプルな言葉で伝わるようにするのがポイントです。
例えば、仕事をしていく中で上司にアドバイスをしてもらったときには、「資料についてご助言いただき、ありがとうございます」などと伝えましょう。お礼を言いたいポイントを具体的に示すことで、気持ちがより伝わりやすくなります。
メールの返信や日程調整など、ささいなことであっても、感謝の気持ちを伝えたいときには、具体的な内容を付け加えてみましょう。
ありがとうございますの言い換え表現
感謝を伝えたいとき、毎回「ありがとうございます」と言っていては、少し表現力に欠けますし、メールなどでは文章が短調になる可能性があります。
そのようなときのために、いくつか言い換え表現を覚えておくと便利です。「ありがとうございます」を別の言葉で言い換えるには、どのような表現があるのでしょうか?
御礼申し上げます
感謝を伝えたいときの言い換えとして使えるのが、「御礼申し上げます」という表現です。『申し上げる』は『言う』の謙譲表現に当たり、『御礼を言わせていただきます』という意味になります。
『御礼』の部分は、『おれい』『おんれい』どちらの読み方でも構いません。式典などのフォーマルな場では、『おんれい』と読むケースが多いでしょう。
この表現は口頭で伝えるよりは、手紙やメールなどで使用することが多いかもしれません。頭に『厚く』を付けることで、お礼の気持ちを強めた表現にすることも可能です。「平素は弊社のサービスをご利用いただき、厚く御礼申し上げます」などの使い方ができます。
感謝いたします
「感謝いたします」と、ストレートに感謝していることを伝える表現もあります。『いたす』は『する』の謙譲語・丁寧語のため、ビジネスシーンでの利用も問題ありません。更に丁寧にしたい場合には、「感謝申し上げます」という言い方も可能です。
強調したいときには、頭に『深く』『心より』『心から』などの言葉を付けるとよいでしょう。また、繰り返し感謝の気持ちを伝えたいときには、「重ねて感謝いたします」「改めて感謝いたします」などの表現の仕方もあります。
恐れ入ります
「恐れ入ります」という言葉には、相手に対する敬意を表しながら感謝を伝える意味があります。単独で使ったり、「ご配慮いただき、恐れ入ります」など、具体的な内容を付け加えたりして使いましょう。単純に感謝の気持ちというよりも、謙遜や相手への敬意を込めた表現のため、特に目上の人に対して使いやすい表現といえます。
なお、『恐れ入ります』は、誰かに何かの物事を尋ねたり、依頼したりするときにも使う言葉です。その際は、「恐れ入りますが、○○をお願いできますか?」という形で、前置きとして使用します。
メールや手紙で使う際の注意点
「ありがとうございます」という言葉をメールや手紙など、文章に書いて使用する場合、どのようなことに注意すればよいのでしょうか?マナー違反や文章の間違いにならないよう、気を付けたいポイントを紹介します。
漢字では「有り難う」
メールや手紙を書くとき、漢字にするかひらがなにするか迷う人がいるかもしれません。一般的には、『ありがとう』は、ひらがなで書くことが多い単語です。漢字で書く場合は、もとの形容詞の『有り難い』と同様に、『有り難う』という表記になります。
『ありがとう』を書き文字にする場合は、漢字でもひらがなでも誤りではありません。シチュエーションに応じて使い分けましょう。
「御座います」は誤用
『ございます』という言葉を漢字で書くと、『御座います』という表記になります。しかし、「ありがとうございます」という言葉には、この表記を使わないよう注意が必要です。
実は、『ございます』には、二つの使い方があります。まず一つは『ある』という動詞の丁寧語で、もう一つは『~である』という補助動詞の丁寧語です。動詞の丁寧語の意味で『ございます』を使用するときには、『御座います』という表記にしても問題ありません。
しかし、補助動詞として使用するときには、ひらがな表記にするのが正解です。「ありがとうございます」の場合は、補助動詞の意味で使われているため、『ございます』とひらがなで書くようにしましょう。
与えたい印象で配分を決める
「有り難うございます」と「ありがとうございます」では、読む人に与える印象が違ってきます。漢字を使用するか、ひらがなを使用するかは、相手に対して与えたい印象で決めましょう。
基本的に、漢字が多いとかっちりとした印象、ひらがなが多いとややくだけた・やわらかい印象になります。ビジネスメールのクライアント向けでは漢字を使い、親しい知人にはひらがなを使うなど、自分のルールで使い分けをするとよいでしょう。
その際は、「ありがとうございます」の前に付ける言葉の表記も含めて、考えるのがおすすめです。「誠に有り難うございます」「誠にありがとうございます」「まことにありがとうございます」の三つでは全て印象が変わるため、シチュエーションや相手によって選びましょう。
ビジネスシーンで使える例文紹介
「ありがとうございます」をビジネスシーンで使う場合、どのような使い方があるのでしょうか?取引先など社外の場合と、上司へ送る場合に加え、お詫びの文章で使うときの例文を紹介しましょう。
取引のお礼を伝える場合
相手が取引先の場合は、次のような例が挙げられます。
- 新規のご契約をいただき、誠にありがとうございます
- 本日はお忙しいところ、貴重なお時間をいただき、ありがとうございます
- 遠いところご足労いただき、ありがとうございます
- 平素は格別のお引き立てを賜り、誠に有り難うございます
- 打合せ日程についてご調整いただき、ありがとうございます
このように具体的に感謝するポイントを明確にしておくことで、お礼の気持ちが伝わりやすくなります。また、漢字とひらがなの使い分けによって印象が変わる点にも注意して、どのような文章にするかを選びましょう。
上司へ送る場合
上司に感謝の気持ちを伝える場合には、次のような例文が挙げられます。
- いつもお気遣いいただき、誠にありがとうございます
- 早速のご返信、ありがとうございます
- 資料についてご助言いただき、ありがとうございます
- ○○の件、ご教示いただき、ありがとうございます
日頃の気遣いや、仕事のサポートなどについて、このような例文を用いて感謝の気持ちを伝えていきましょう。
お詫びの文章で使う場合
「ありがとうございます」という言葉は、お詫びの文章を送る際にも使うケースがあります。例えば自社の製品に対してクレームがあり、お詫びする必要がある場合、単に謝罪の言葉を述べるだけでなく、次のような文章で感謝を伝えることも大切です。
- ○○の件、お問い合わせいただき、ありがとうございます
- この度は弊社のサービスについて貴重なご意見を賜りまして、誠にありがとうございます
- お忙しいところご連絡をいただきまして、ありがとうございます
- 平素より弊社の製品をご利用いただき、誠にありがとうございます
このように、意見をもらったことや問い合わせをもらったこと、そして日頃から自社の製品を使ってもらっていることに対するお礼を伝えましょう。
構成/編集部