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謙譲語と尊敬語のどちらにも使われる言葉『賜る』を、正しく理解して使えていますか?ビジネスシーンで多用するので、自信を持って使えるようになりたいものです。賜るは格式張った言葉のため、言い換え表現も紹介するので使い分けの参考にしてみましょう。
賜るの意味と使い方
『たまわ(る)』と読む賜るは、謙譲語に属します。そもそも謙譲語がどのような言葉なのか、あやふやな人もいるかもしれません。賜るの意味や使い方と同時に、謙譲語についても解説していきます。
何かを与えられた時に使う謙譲語
職場でのビジネスメールやフォーマルな場でのスピーチなどで使われる賜るは、『もらう』という意味があります。『いただく』という謙譲語よりも、より丁重で低姿勢な印象を与えられる言葉です。
使用できる場面は、地位や年齢が上の人から品物をもらったときだけではありません。心遣い・恩義・誠意など厚意に対しても使えます。例えば、「結構な贈り物を賜り、大変恐縮です」や「ご意見やご指導を賜れれば幸甚です」といった使い方が可能です。
謙譲語とは自分を下げる表現
敬語に含まれる謙譲語は、『自分を下げて相手に対して敬意を表現する言葉』です。
尊敬語と謙譲語では何が違うのか分からないという人もいるかもしれません。謙譲語が自分を下げて相手を上に見る表現であるのに対し、尊敬語は相手を上げて敬意を表現する言葉という違いがあります。
どちらを使うのが正しいのか迷った時は、『主語』に着目しましょう。日本語は主語を省くことも少なくありませんが、主語が『自分』か『相手』かで簡単に使い分けができるのです。自分が主語の場合は謙譲語を使用し、相手の場合は尊敬語になります。
格式張った表現のため頻繁に使うのはNG
賜るは、フォーマルな場や文章に使用される格式張った表現のため、使用する状況や頻度に配慮することも大切です。地位や年齢が上の人でも、直属の上司など親近感のある人に使用すると違和感を与えかねません。「わざとらしい」「嫌味たらしい」など、不快な印象を与えてしまうこともあるため注意しましょう。
また、相手に失礼がないようにと思うあまり多用してしまうと、逆に軽々しい印象を与えてしまうこともあります。たとえ地位や年齢が上の人から受けた厚意や心遣いだとしても、日常的にあるような事柄に対しては別の表現を用いるなど、状況に応じて使い分けをしましょう。
尊敬語として使われる場合
賜るは、尊敬語として使用されることもあります。その場合の意味や具体的な使用例を見ていきましょう。
与えるの尊敬語としても使用
読み方は変わりませんが、尊敬語として使われるときは『与える』という意味になります。地位や年齢が上の人が、品物や厚意、意見などをくださるという意味合いで使われています。相手を立てて敬意を表す表現です。
謙譲語の『もらう』と尊敬語の『与える』では一見異なる行為に思えますが、実際には行為自体は同じで、自分がどちらの立場で物事を見るかによって解釈が異なってきます。例えば、「支援者から寄付を賜った(支援者から寄付をいただいた)」と謙譲語で言うのと、「支援者より寄付を賜った(支援者が寄付をしてくださった)」と尊敬語で言うのでは、行為自体は変わりません。
尊敬語として使用される場合の例
尊敬語の使用例をいくつか紹介するので、ビジネスメールを書く際やスピーチ原稿を作る際などの参考にしましょう。
「功績に対し感謝状をくれました」や「会長が記念品をくれました」は、それぞれ「功績に対し感謝状を賜りました」「会長より記念品を賜りました」と言い換えられます。
ビジネスの場でよく使われる「ご参加くださいますようよろしくお願い申し上げます」は、「ご参加賜りますようよろしくお願い申し上げます」と言うことができるのです。
賜ると承るの使い方に注意
賜ると混同しやすい『承る』は謙譲語である点は同じですが、使用法に違いがあります。どのような違いがあるのか、実際の使用例とともに解説するので、迷った時の参考にしてみてください。
承るは言葉や厚意に対して使う謙譲語
『うけたまわ(る)』と読む承るには、二つの意味があります。『聞く』と『受ける』という意味で、それぞれを謙譲語に言い換えた表現です。
地位や年齢が上の人の言葉や厚意に対して使用する言葉である点は、賜ると同じですが、大きな違いは『品物に対しては使用しない』点になります。「貴重な品を賜り…」と言うことができますが、「貴重な品を承り…」と言うのは間違いのため注意しましょう。
承るを使うべきシーン例
日常的に使用される言葉ではなく、主に職場など仕事関係で使われるでしょう。聞くという意味で頻繁に使われているのが、電話での対応時です。「ただ今〇〇は外出中ですので、伝言を承ります」「ご用件を承ります」というフレーズを聞いたことがあるのではないでしょうか?
受けるという意味では、「ご依頼いただきました見積もりの件につきまして、承りました」「今回のご依頼は納期の関係で承ることができません」という使い方ができます。
賜るを言い換える表現
賜るは格式張った言葉であるため、使用する場面によっては違和感を覚えることも考えられます。同じ意味の別な言い回しをいくつか知っておくと役立つでしょう。
いただく
『いただく』は、もらうという意味の謙譲語であるため、言い換えることができます。「~していただく」のように、他の動詞に後続する形で使用されるのが特徴です。
例えば、「ご意見やご指導を賜れれば幸甚です」や「ご協力賜り、大変恐縮です」は、それぞれ「ご意見やご指導をいただければ幸甚です」「ご協力いただき、大変恐縮です」と言い換えられます。「ご支援賜り、心より感謝いたします」は、「ご支援いただき、心より感謝いたします」となるのです。
ちなみに、「ご指導を頂く」「ご協力頂く」と漢字表記にすると意味が変わってしまうため注意しましょう。物をもらうという意味では漢字表記も使えますが、頂くは「食べる」「飲む」の謙譲語になります。「~していただく」という用法のときは、ひらがなが正しい表記です。
頂戴する
もらうの謙譲語には『頂戴する』という表現もあり、いただくと同様のシチュエーションで使用可能です。品物をもらうときだけでなく、意見や気持ちなどをもらうときにも使えるため、覚えておくと便利な表現でしょう。
「上司より感謝状を賜りました」は「上司より感謝状を頂戴しました」になり、「お土産を賜り、大変恐縮です」は「お土産を頂戴し、大変恐縮です」と言い換えられます。
意見や気持ちなどをもらう場合も、「御社のご意見を賜りたく存じます」や「ご指導ご鞭撻を賜りたく存じます」は、それぞれ「御社のご意見を頂戴したく存じます」「ご指導ご鞭撻を頂戴したく存じます」になるのです。
拝受する
堅苦しい言葉のため、日常会話で使われることはありませんが、『拝受する』に置き換えることも可能です。『受け取る』という意味の謙譲語で、主にビジネスなどフォーマルな場面で使えます。相手への敬意を表して受け取るという意味合いがあります。
「貴重な記念品を賜りました」は、「貴重な記念品を拝受いたしました」と言い換えが可能です。「見積もりを拝受いたしました」や「企画書が届き次第、拝受いたします」など、さまざまな場面で使用できます。
ただし、自分を下げて相手への敬意を表現する言葉のため、「見積もりを送付しますので拝受願います」や「見積もりは拝受されましたか?」のように相手の行為に対して使うことはできません。誤用しやすいため注意しましょう。
構成/編集部