UK4大プログレッシブロック・バンドの一角、イエスの代表作と言えば、『こわれもの』と『危機』を外す人はいないだろう。『危機』のマト1“聴き”比べは2018年12月の記事を、マト1とは“この世でもっとも音がいいアナログレコード”のことだが、詳細は2017年12月の記事を読んでいただくとして、この記事の主役は『こわれもの』だ。
なぜ今『こわれもの』なのかというと、60年代70年代の名盤をオリジナルマスターテープから入念にマスタリングしてアナログ盤を制作・少量生産し、その高音質に定評のあるアメリカの会社、モービル・フィデリティが『こわれもの』の「ULTRADISK ONE-STEP」を発売したのだ。「ULTRADISK ONE-STEP」の第1弾はドナルド・フェイゲンの『ナイトフライ』で、「ULTRADISK ONE-STEP」とは何たるかは2018年1月の記事を参照されたい。
モービル・フィデリティ盤『こわれもの』。ディスクユニオンで、税込17380円。
この『こわれもの』は当初、2019年9月の発売とアナウンスされたが、遅れに遅れて本年1月末の発売となった。かなり待たされたが、それだけ念入りに制作されたと受け取れば、その音質への期待は高まるばかりだ。
『こわれもの』は、UKマト1もUSマト1も轟音で知られる名録音盤だ。僕が迷宮マト1ワールドにはまり込んだ2015年、一刻も早く手に入れたかったアルバムの1つで、UKマト1は約18000円、USプロモ盤(=マト1)は約8000円で購入した。その後USプロモ盤と同じPR工場製の市販マト1を4000円で、さらに当時の日本盤(ワーナー8000番台と呼ばれる初期盤で、音がいいとされる)を手に入れた(購入価格は定価なみだったような……)。
日本盤。中古盤購入時、既に帯にマジックが塗られていた。マジックの下には米国製と印刷されている。持ち主は何故こんなことをと不思議に思っていたが、今回この記事を書くにあたり、ある推測が生まれた。ネット上にある『こわれもの』(ワーナーP-8026A、2000円)の画像を見ると、どの帯にも米国製の文字がない。よって、ブックレットが米国製ではないのに米国製とミス印刷してしまい、レコード会社がマジックで文字を潰したのでは? なればこの日本盤はマト1だ。
4種類が集まった際に、『こわれもの』収録の名曲「ラウンドアバウト」を聴き比べた。USプロモとUS市販は同じ音、日本盤は劣り、UKとUSの優劣は好み次第だが僕にはUSのほうがいい。これは『危機』とほぼ同じ感想だ。
それから1年強が経ち、モービル・フィデリティ盤入手を機に、改めて5種類を聴き比べることにした。今回は4種類の優劣が変わるかもしれない。なぜなら、オーディオの音がぐっとよくなったのだ。といっても、機器を買い替えたわけではない。
僕の愛機LINNのDSMは、「スペース・オプティマイゼーション」という機能を適用できる。スピーカーの位置や試聴環境をモデリングして、その試聴環境における最適な音を再生する機能だ。既に利用していたが、「スペース・オプティマイゼーション」が進化した。モデリングの対象に、部屋の形、窓やドアの位置、そして気温や湿度などが加わり、よりよい音を再生できるようになったのだ。この進化で、20%くらい音が向上したと思っている(費用はかからず、パソコンからLINNのクラウドサービスにサインインして進行する)。
このようにオー-ディオ環境がグレード・アップしたので、盤の再生音にも影響し、優劣が変わるかもしれないというわけだ。僕は比較試聴する際は、5段階で評価する。4以上なら合格、3なら音がいいとは言えない。2や1は、よほどのことがない限りあり得ない。では、『こわれもの』のA面1曲目、「ラウンドアバウト」を聴く。