まったく違うものを合わせブランド化へ
松浦がマーケティングを担当する今の部署に異動したのは、入社して1年半後だった。大学ではマーケティングを専攻した。知識には自信がある。営業でマーケティング担当が作った商品を扱ったが、例えば肩に乗せて蒸気で暖めるパットとか、アイデアベースの商品は出る。ところがブランドとして、どういう世界観を作っていくかいう点が、まったく欠如していることに気づいた。
「卸業でスタートした会社だからだろう。活発な意見交換をして、アイデアを出すようなクリエイティブな雰囲気が足りない」とは、現社長の父親から聞いていた。だが、将来的に会社の舵取りを志す社長の息子としては、卸業とともに、メーカーとして会社を大きくしたいという夢がある。
マーケティングを担ったからには、結果を出すと松浦は意気込んだが試行錯誤が続いた。『ピップエレキバン』と『スリムウォーク』、そして04年発売の肩こりに効く『マグネループ』以降、新ブランドが出ていない。
「新しいブランドがほしい、そりゃそうだよなぁ」マーケティングの部署の課長が松浦の話を聞いてくれた。
「オリンピックもあります。健康寿命を延ばすことへの関心が年々高まっている。スポーツ人口も伸びている。スポーツでブランドを作るべきですよ」
「うちはヘルスケアカンパニーだ。スポーツを楽しんで、健康になりましょうというのはいいね」
ピップのキネシオロジーテープという製品は、テーピングテープの分野ではドラッグストアでのシェアがNo.1だ。一方で、2011年に発売された『ProFits』(プロ・フィッツ)という、主に運動の際に使用するサポーターも製造・販売する。
「せっかくスポーツする人向けの商品があるのに、なんでバラバラに売っているんですか。ここをまず括って、“ProFits”というブランドで統合しましよう」
松浦由典は宣言するように声をあげたが、「ウム…」と課長は難しい顔をした。キネシオロジーテープのパッケージは真っ黄色、片や『ProFits』のパーケージは黒と銀。まったく違うものを、どのようにしてブランド統合していくのか。
さて、社長の息子のブランド作りの手腕は、明日公開の後編で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama