他人の気持ちになる、課長はこれが大事
若い頃にしごかれた先輩が、自分の部下になるのは気まずいものである。新入社員の頃に指導された大先輩の女性が、奥山のグループに配属になると部長から告げられた。
えっ、僕が彼女の上司に……。戸惑ったが、
待てよ、彼女はどう考えてんのやろ……。彼女は事情があり長期休職を経ている。
もしかして、オレより彼女の方が、メチャクチャ不安なのとちゃうかな……。そう思った奥山は一計を案じた。彼女が部署に初出社する日、少し早めに出社した彼は、先輩が姿を表すと「待ってましたよー!」オフィス中に響く声を上げ、先輩をハグした。これで一気に気まずい雰囲気が解消した気がした。
「あの時は嬉しかった」それは後日、飲み会での先輩の言葉だ。奥山課長にとっては、他者の気持ちになることで自分の気持ちがガラッと変わる、社内的にもうまくいくことを思い知らされた出来事だった。
時には部下に強い口調で諭す時もある。一本気な男だけに、例えば部下が会議を主催する人間の役職によって、態度を変えたりすると腹が立つ。叱ると怒るは違うとわかっていても、ついオフィスで声を荒げたことが、ないでもない。
オレ、ただ怒っているだけやないか…。そんな時、彼は人知れず自己嫌悪に陥っている。
「課長の役割をざっくり言うと、メンバーが存分に力を発揮できる環境づくりですよ」という奥山。アイデアを大切にする会社だ。将来的にはアイデアを効率よく新製品に活かす道筋をつけたい。そして、人事の部署に行きたいという希望がある。人の環境は多様だ。彼の実家も母親が祖母を看る、老老介護の現実がある。人それぞれに応じて働きやすい環境を用意できるのは人事の力だと思っている。
奥山保雄、41歳。7歳と4歳の息子がいる。休日は仮面ライダーごっこをしたり、子供と遊ぶことは大好きだが、それ以外は不得意である。仕事を持つ妻が家事、育児、老老介護の援助を完璧にこなしてくれている。「妻には感謝しているって、絶対書いてください」と、奥山に念を押された。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama