社内でも孤立しがちな中間管理職。働く現場で何を考え、何に悩み、どんなリーダーとしての術を講じているのだろうか。この企画は課長職に相当する管理職の本音を紹介する。
シリーズ第9回は楽天株式会社 事業開発部 オンラインPPAP開発課 シニアマネージャー 山口高志さん(34)。7年間コンサルティング会社に勤務。転職をして2016年3月、楽天に入社。現在、山口さんが立ち上げた社内ベンチャーが、楽天の戦略的な案件と評価されている。
組み合わせで、新規収益を作れないか
前職では公共サービスに民間の力を取り入れて、効率よく変えることを軸に、コンサルの仕事に従事していました。「例えば電力自由化の流れの中で値段は下げつつ、品質を落とさない形で、いかにサービスを提供できるか。それぞれ機能ごとにコールセンターを持つのではなく、ワンステップの形にするとか」
3年ごとに個人的なキャリアの見直しを決めている彼は、前職に残るより転職を選んだ。公共事業に関わる仕事が人々にとって大切なことは言うまでもないが、当事者意識として考えた時、公共事業は自分ごととして捉えづらい。転職して事業開発の仕事に取り組み、新規収益を学びたいと考えた。
新規収益といっても、ゼロから何かを起こすイノベーションは、自分に向いていないという自覚が山口にはある。あるものを組み合わせ何かを生み出す。そんなイノベーションが自分に向いていると考えた時、彼にとって楽天はうってつけの会社だった。楽天市場にはありとあらゆるものが交差している。単にネット上で商品を売買するだけでなく、“体験”を買うようなこともできる。それら散らばっている点と点を組み合わせれば、価値のある新しいものを作り出せるに違いない。
楽天市場のシステムは、例えば人口が減っていく地方で、いい商品を持つ個人や企業が、全国どこのお客にも販売できる。世の中のために力を与えていく、エンパワーメントはこの会社の理念だが、山口も前職のコンサルの時からそんな思いを抱いている。
クレームの嵐の中で学んだこと
山口が最初に取り組んだ新規事業は、自動車教習所。社内のコンサルタントと話し合う中で生まれた企画だった。楽天市場に出品した自動車教習所は、ポイントを加味すると従来のものより数万円は安くユーザーに提供できた。17年7月には社内で事業移管される形で「RAXY(以下・ラクシー)」の事業長を兼務するが、厄介な問題に遭遇したのはこの時である。
例えば、百貨店が撤退していく地方では、ユーザーが化粧品のサンプルを試したくてもその機会が減っている。そこでラクシーは化粧品メーカーから、いろんなサンプリング商品を提供してもらい、楽天がBOXにして毎月ユーザーにお届けするという、コスメサブスクの事業だ。
BOXの中に市販品を何品か入れると、プレスリリースには明記した。だが、事業移管される形で事業長に就いた山口は、何かの行き違いで、そのプレスリリースのことを知らなかった。
実際にユーザーの元に届いたBOXの中に、市販品が一品も入ってなかったのだ。お客からのクレームはSNSで火がついた。一週間ほど、部署の電話が鳴り止まなかった。まず、電話口で相手のいうことを全部聞く。時には1時間以上、電話で相手と向き合い話を聞いた。「話すうちに声のトーンが上がってしまうから、ひと呼吸置いて2オクターブぐらい声を下げて、話したほうがいいよ」と、彼は部下にアドバイスを送った。