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このシリーズは中間管理職の本音を紹介する。上司と部下に挟まれ、孤立しがちな中間管理職は何を考え、何に悩み、どんな術を講じているのだろうか。
シリーズ第9回、ゼブラ株式会社 研究開発本部 商品開発部 課長 平將人さん(43)。ゼブラはボールペンの老舗。長年、数字を扱う財務・経理系の部署の業務に携わってきた平さん。真逆な業務といってもいい、開発本部の課長のポストに就いた一つの理由は、中国市場を睨んでのことだった。中国の学生に絞った戦略では、一定の成果をあげた。
それまで勤務していた7階の予算室から、3階の今の部署に異動した当初は、目線が7階に残っていた。課長として反省させられたこともあったという。
7階の“上から目線”の反省
「こうしなきゃいけないと、上から目線になっていたんですね」と、平は3年ほど前に異動してきた当時を振り返る。例えば、こんなことがあった。
それまで部内では、企画を立ててから社内のデザイン室に引き渡し、デザイナーが仕事をする流れだったが、「デザイナーも一緒になって、企画を立てたほうがいいんじゃないか」と、平は部下に命じた。
出来上がった企画をデザイン室に引き渡す流れだと、企画の意図がデザイナーに十分、反映されないのではないか。デザイナーはやらされるだけの仕事で、モチベーションを逸し、外注のようになっているのではないか。そんな課長としての配慮からの判断だった。
一見、理に叶っているようだが、企画段階からデザイナーが加わると、企画がまとまらず労力がかかる。分業のほうが、デザイナーも商品開発部のスタッフもはるかに効率的だ。「私たちには私たちなりのやり方があるんです」という感じで、部下の猛反発を食らい、押し付けの提案だったと彼は反省した。
財務・経理系を担う予算室は、社長室と同じ7階にある。他の部署を見下ろす“上から目線”になりがちだ。だが、開発の部署はアイデアを出し仕様に落とし込み、工場と調整をして、営業に売ってもらうよう働きかける。“上から目線”は禁物で、ユーザーに密着した平衡感覚の目線が大切だと自覚した。
替え芯、サラサブランドなら売れるよ
改めてそんな目線を意識した時、部下が発想したある案件が、平の中でクローズアップされた。ずっと気になっていたのだ。予算室にいた頃、議事録を担当した彼は役員会に出席していた。ある時、商品開発部が替え芯のボールペンの企画を役員会に上申した。だが、競合他社に似た製品があり、ボールペンのボディーを形作る金型の製作コストを考えると、採算が合わないと却下されていた。でも――。
いけるんじゃないか、人気のサラサブランドで替え芯のボールペンを発売すれば、売れるに違いない。彼は役員会に上申した商品開発部の担当者と話し合う。
「ブランド力のあるサラサで、替え芯の商品をやれば、競合のシェアを奪えるよ」
「でも、ガワを生産する金型にお金がかかると」
「中国で金型を作ればコストが下がる、いけるんじゃないの?」
部下の表情がパッと明るくなった。「それ面白いですね」
彼は中国の提携会社に技術者とともに訪れた。一方で、一度ポシャった企画を復活させるのは難しいが、役員会で議事録を担当した彼は、役員が何を欲しているのか、よく理解している。中国で製作した時の金型の値段、サラサブランドで販売した時に予想される売上げ等を、数字に落とし込み上層部を説得した。そして了解を得た。難航した金型作りだが、社内の技術者が中国の提携会社を指導する形で仕上げていった。
芯が替えられるボールペン『サラサセレクト』の発売は18年3月。替え芯の種類は23色。これが前編で登場した『サラサセレクト スヌーピー』に繋がっていく。