サラリーマンとして長年磨いてきたものは何か
これまでのサラリーマン人生で、できる上司は何人か見てきた。取引が少ない量販店に飛び込みで営業をかけ、大きな売上げを作り、さらにその量販企業のOEMの商品まで、納める関係を築いた上司もいた。
「でもな、上司を超えようと考えるな。上司はいずれいなくなる。上司の優れた面は気にせず、自分の武器となる、自分の強みを意識し磨いていけ」
それは前職で先輩に言われた言葉だが、最近、時々脳裏をよぎる。
中小企業で最も要になるのは何か。それは馴染むことだと伴は思っている。会社に部下に上司に馴染んで、みんなと一緒に力を合わせ仕事に取り組む。もしかしたら、それが長年磨いてきた、自分の強みなのかもしれない。最近、そう感じることがある。
「メーカー営業の最終目標は、ファンづくりだ。自社の製品のファンをどれだけ増やせるか」これも、かつての上司に言われた言葉だが、自社製品のファンを増やす努力は、直属の上司である女性社長にはかなわない。
社長は休日でも夜中でも、得意先への挨拶回りを欠かさない。訪問先でお酒が振舞われれば、しっかりと付き合う。伴から見ると相当なオーバーワークだが、オーナーの仕事の仕方は、そういうものかもしれないと思っている。女社長は芸能人にも人脈があり、BS放送の番組に出演したり、会社の倉庫を使ってタモリ倶楽部の収録をしたこともある。これもそれも、自社製品のファンを増やすためである。
年を重ねると、満員の通勤電車が苦痛でならない。彼は65才でリタイアするつもりでいる。それまでに大手の卸問屋への顔つなぎや、40年になるサラリーマン人生で築いた人脈をどれだけこの会社に残せるか。まだまだ、やらなければならないことがある。
伴秀雄、64才、妻と二人暮らしだ。横浜のマンションの同じ棟には娘夫婦が住んでいる。孫にはジイジと言われる身だ。この会社を退職したら、家の近くのスーパーで週に3日ほど働くつもりでいる。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama