雑誌であったタイムアウトがフードホール事業に着手した理由は?
それは、「新たな収益源を獲得するため」だと私は考えます。
今、雑誌業界は苦戦を強いられています。ネットの普及により雑誌の売上は減少し、さらに今まで収益源であった広告収入が、GoogleやFacebookなどグローバル規模のメディアに奪われていっています。
広告収入だけを収益源にしていても勝ち残ることはできない。そう考えたタイムアウトは、新たな収益源を確保するためにフードホール事業へ着手したのではないでしょうか。
オープンから18か月以内でEBITDAが黒字に転じたという、タイムアウトマーケットの1号店となったリスボン店には、昨年3,100万人もの人が訪れており、今やポルトガルで最も人気のアトラクションの1つになっています。
Photo: https://clientcentre.timeout.com/home/
2018年、タイムアウトグループは61,660万ドルの収益を上げたと発表しています。利益の内訳は、デジタル広告事業が1,880万ドル、Eコマース事業が790万ドルで、印刷広告事業は1,940万ドルでした。李リスボンのタイムアウトマーケットの収益は1,140万ドルで、グループ全体の収益の18%を占めています。リスボン店の成功により、タイムアウトはフードホール事業に可能性を感じており、今後世界各国にタイムアウトマーケットをオープンすることを計画しています。
一部のアナリストは、「2019年末までに、タイムアウトグループの収益の約35%がタイムアウトマーケット事業から来る」と予想しています。
また、タイムアウトマーケットで得られる収益は飲食店の売上だけではありません。例えば、フードホールの正面にある大きなスクリーン画面。ここには街のイベント情報がQRコードと共に映されています。
イベント情報をスクリーンに映し、そのQRコード経由でイベントが申し込まれると、タイムアウトにインセンティブが入る仕組みになっています。
このようにして広告収入も獲得しているのです。
雑誌であったタイムアウトがフードホールを運営するメリットとは?
リスボン店が成功したとは言っても、今小売業界で注目されているフードマーケットにはライバルも多いのも事実。
雑誌であったタイムアウトがフードホール市場に参入して勝機はあるのか?という疑問も生まれてきますが、以下の2点の理由から強みが生かせるのでは、と考えます。
1.各部門が連携することで、収益性の高いフードホールを構築できる
巨大メディア企業であるタイムアウトには、コンテンツを企画するマーケター部門、そしてその企画を形にするメディア部門、収益性を管理するファイナンス部門など、多くの部門が存在します。
日頃、地元の人気レストランをリサーチ・取材しているメディア部門は、地元のレストラン事情を熟知しており、タイムアウトマーケットに相応しいレストランを選ぶことができます。
そして、1度レストランを選んだら終わりではなく、評判や売上を参考にそのレストランと継続契約するか、あるいは別の店舗を誘致してくるかはファイナンス部門で分析します。
また、広い面積を持つタイムアウトマーケットにはイベントスペースなどが存在しています。そこでマーケター部門は、イベントなどフードホールを活用したコンテンツを企画し、集客に貢献することができます。
このようにして、部門間で連携しあうことで、収益性の高いフードホールを構築しています。
2.スペースのみならずプロモーションも提供できるフードホールの構築
その地域の優れたヒト・モノ・コト情報を発信する情報誌、そしてメディアサイトとして高い評価を得ているタイムアウト。
そんなブランド力の高い雑誌やメディアサイトに、無料で情報を掲載してもらうことができるというのは、タイムアウトマーケットに入居を考えているレストランにとって嬉しいこと。
記事の執筆や動画制作を専門としているスタッフに、魅力的な記事を作成してもらい、PRしてもらえるという事実は、地元の有名レストランを惹きつける大きな要素になっています。
メディア業界から飲食店業界に参入するのが今後のトレンド?!
タイムアウトだけでなく、広告収入以外の収益を確保するため、飲食店業界に参入するメディア企業がアメリカでは増加しています。
例えば、レシピ動画を配信している「テイストメイド」がサンタモニカにカフェをオープンしたり、フリーマガジン「VICE MAGAZINE」がニュージャージーにフードホールをオープンしたりしています。
Photo: http://studiolabdecor.com.br/
メディアで得た強みを活かし、飲食店業界に参入してくる流れが今後増加してくるかもしれません。
文/小松佐保(Foody Style代表)
一橋大学経済学部卒業。
日本&シンガポールのブランドコンサルに勤務した後、独立しアメリカ・ボストンへ。
会社員時代に生活習慣の乱れが原因で体調を崩したこと、ボストニアンの心身共にヘルシーなライフスタイルに感化されたことで、「食×健康」領域に関心を抱くように。
現在はボストンと東京を行き来しながら、食×健康領域に関わる企業のマーケティングコンサルや海外展開サポート、コラムの執筆等を行っている。