3、「社内個人事業主」になっている
井の中の蛙になる最大の理由は、社長以下、役員、管理職、個々の社員が「社内個人事業主」であるからだ。「社内個人事業主」とは会社員でありながら、ひとりで目の前の仕事について判断し、決断することを意味する。しかし、そのことの責任は一切とらない。ある意味で身勝手で、無責任極まりない存在なのだ。形式上の上司は存在するが、概して育成力は低い。例えば、仕事の隅々まで丁寧に観察し、時にPDCAサイクル(Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善))を回し、教えているわけではない。部下を育成する意識が怖いほどに希薄なのだ。その理由は、ここ数回の過去の記事をご覧いただきたい。
より具体的に言えば、このレベルの会社の多くは20代前半で実質的に管理職となる。
20代後半で、部長や本部長、執行役員のような物言いをする人が大半である。チームや部署があっても、上司が不在であるのだから、機能はしていないと言える。結果として、個々の社員が独自の基準で判断し、動く。まさに「社内個人事業主」なのだ。20代の社員の大きな特徴は、わずか数年の経験でつかんだ経験則に、目の前の仕事を必ず当てはめようとする。しかも、その経験則は間違いであるケースが多い。そこにトラブルや問題が発生しても、上司がおらず、指摘もしないから、ミスがミスにならない。
この人たちは報告、連絡、相談を通じて、上司や同僚とチームを組んで仕事をする発想や意識がほとんどない。そんなことは、教えられていない。組織で動くことができないから、業績が伸び悩み、創業15年以上でも社員数が100人以下であることに気がついていない。
結局、20代で大きなプロジェクトの責任者になり、誤った判断を繰り返すなどしてやりたい放題が可能になる。そのことのPDCAサイクルはもちろん回らない。「検証や反省なき仕事」を続け、常に「自分が正しい」と信じ込み、何かを指摘されることに敏感に反応し、時に感情論になる。人の意見には、まず耳を傾けない。だから、同じ過ちやミスをしつこいほどに繰り返す。ところが、誰も指摘しない。「社内個人事業主」の集合体であるから、先輩や同僚らは互いにけん制し、必要以上に踏み込んで助言を言わない。個々があくまで「社内個人事業主」なのだから、仕方がないのかもしれない。
これら一連の状況を社長や役員は理解していない。長年、こういう職場にいたのだから、問題意識を持つことはまずない。結果として、井の中の蛙が次々と生産される。意識が高く、潜在能力の高い社員はバカバカしくなり、いつの間にか、いなくなる。井の中の蛙の集団になっているから、残る社員たちは辞めていく人を「使えない」「戦力にならない」「やる気がない」「協調性がない」などとレッテルをはり、自分たちのムラ社会を正当化する。
社員数が100人以下で、創業15年以上の会社の社員のうち、6∼8割がこの類だと私は思う。こういう会社が多数あることを就職活動シーズンの今こそ、メディアや識者が伝えるべきなのではないだろうか。
文/吉田典史