「いい感じになる早で」では伝わらない
葵さんは、同僚のJannaさんにウェブサイト制作の指示で、「いい感じ」「なる早」という言葉を使う。後日、出来上がった成果物は、葵さんが期待していたほどの完成度でなく、提出も遅かった。
「いい感じ」、「なる早」は日本人にしか分からない(本書より)
外国人社員の日本語が達者であっても、安心して曖昧な言葉遣いをしてしまうと、後で失敗や失望につながりかねないので注意が必要だ。特に依頼事においては、「日本では、依頼者の説明の仕方より、依頼を受ける人の方の理解する努力に重点が置かれている」と、著者のロッシェル・カップさんは指摘する。
そこで依頼の際には「出来上がったものとして何を期待しているかをできるだけ具体的に話す」よう注意し、「特定のやり方やプロセスを使う必要があるのか、特定の情報を参照する必要があるのか、どんなことに気をつければいいか」など説明を加える。日本人相手だと情報過多に思える内容でも、外国人社員にはこれぐらいがちょうどいい。
「締切」と”deadline”はニュアンスが異なる
葵さんは、近く開催される見本市の出展にあわせ、自社サイトの宣伝ページを作成するよう、インドチームにメールで依頼する。「deadlineは10月15日」と明確に締切を伝えたつもりが、土壇場で向こうから「1週間延ばして」と連絡が来て大慌ての事態に…
「締切」と”deadline”のニュアンスの違いで大変なことに…(本書より)
日本人ビジネスパーソンにとって、「締切」という言葉には「この日までに必ず完了させるべきもの」という意味合いがある。対して、英語圏の”deadline”は「望ましい目標ではあるけど、他の優先度の高いものや、予期せぬ障壁が出てきた場合には、変更可能」というニュアンスが含まれているという。その違いを知らず、葵さんはピンチに立たされてしまった。
このトラブルを防ぐには、「この締切は固く守られるべきだということを依頼時にはっきり伝える」ことが大事だとし、本書では”This is a deadline that absolutely has to be met.”(これは絶対守らなければならない締切です)といった表現が例示されている。
そして、締切厳守の理由も相手に伝えると効果的。指示した人が勝手に決めたものではないという納得感が生まれる。例えば、”Because I promised to get it to the client by then”(何故なら顧客にそれまでに終える事を約束したからです)というふうに。さらに、依頼してそのままでなく、進捗状況をチェックするフォロー体制も築いておけば万全だとも。
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本書にはこのほか「要点のない長文メール」、「会議では自分の意見はしっかりと」、「リスク回避ばかりのスタンスは理解されない」など、外国人社員とのコミュニケーションで注意したいポイントが、約30エピソード取り上げられている。日本人社員同士でも気をつけたい内容も結構あり、学べるものは大きい。ビジネスの場で、外国人とやりとりする機会が出てくる前に、読んでおくとよいだろう。
著者:ロッシェル・カップさん プロフィール
イェール大学歴史学部卒業、シガゴ大学経営学院卒業。日系大手金融機関の東京本社勤務を経て、ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティングの創立者兼社長。異文化コミュニケーションと人事管理を専門とする経営コンサルタントとして、日系と外資系企業のグローバル人材育成を支援している。『反省しないアメリカ人をあつかう方法34』(アルク)など著書やコラム寄稿多数。北九州市立大学では、マネジメントと英語を教えている。公式Twitter:@jicrochelle
著者:千代田まどかさん プロフィール
マイクロソフト社でエンジニアとして勤務し、マンガ家も兼業。趣味はプログラミングと絵を描くこと。「リクナビNEXTジャーナル」にてプログラミング言語擬人化マンガ『はしれ! コード学園』、「TECH PLAY Magazine」にて湊川あいと共同で『マンガでわかる LINE Clova 開発』を連載中。日本最大級の大型技術者イベント「デベロッパーズサミット2017」にて、「ベストスピーカー賞 総合第1位」を受賞。本書主人公の葵と同じく、多国籍チームの中でアメリカ人上司の下、日本の部署のメンバーとも連携して働いている。公式Twitter:@chomado
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)