仕事を任せることがテーマになる。
川馬も時には部下に、シビアな顔をすることがある。研究員は与えられたテーマに集中して取り組む。それが高じると自分で全部やろうと仕事を抱え込みすぎる。特に真面目で責任感の強いリーダーはそうだ。川馬はそんな部下の話にもじっくりと耳を傾ける。そして「この商品に関しての必要な情報は、メンバーに調べてもらうほうがいいですよ」という感じのアドバイスを欠かさない。中間管理職としてメンバーに仕事を任せることが、メンバーの成長につながると、考えているからだ。
彼の直属の上司は第二商品開発センターのセンター長である。川馬の仕事にほとんど口を挟まず任せてくれるのは、センター長自身も研究員出身で、脇からうるさく言われると、かえって逆効果だとわかっているからなのだろう。
しかし、センター長自身も仕事を抱え込みすぎる研究員気質がある。例えば研究所を今後、どのようにしていくか。マーケティングや生産部門等と、より緊密な連携を取っていくにはどうするか。センター長にしかできない業務に専念し、他のことはこちらに任せてくれればと、彼は内心感じている。
どちらかというと口数が少ない研究員の集団の中で、彼はじっくりと話を聞き、そして部下に話しかける。川馬は潤滑油のような役割を担っているようだ。
「自分がいることで組織がうまくまわるような、バスケットボールで言えば、パスをつないでいく感じ。将来的には組織同士をうまくつなぐとか、“あの人がいるといいよね”というポジションで仕事がしたい」
川馬利広、47才、妻と中学2年の子供がいる。リタイア後は人と話をすることを通して、何か役に立つようなことをしたいと、そんなイメージを抱いている。
取材・文/根岸康雄
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