前編はこちら
1年以上続く「若手社員の本音」シリーズは、中間管理職が部下の若手社員を知るための連載だが、この新企画は現場のリーダーである中間管理職の本音を紹介する。社内でも孤立しがちな中間管理職は、働く現場で何を考え、何に悩み、どんな術を講じているのだろうか。
シリーズ第4回は森永製菓株式会社 研究所 第二商品開発センター 飲料・ゼリー開発グループマネージャー 川馬利広さん(47)。現場のリーダーとして飲料とゼリーの開発の下支え、現行品の改良、新製品の開発、生産に関して工場と交渉の等を受け持つ。部下は男性6名、女性4名の10名。全員が研究員で農学部系を専攻した人間が多い。
前編は新人の有効な使い方と、困難な開発をクリアした部下の気質について触れた。川馬さんの話は中間管理職の役割に及んでいく。
自分で抱え込みがちな研究員たち
川馬自身も研究員生活を経験している。応用生物学を専攻した彼は、新卒で就職した会社で研究員として、遺伝子組替えやタンパク質等を扱っていた。基礎や素材の研究より商品に携わることをやりたいと、前職を5年勤め、今の会社に転職している。
入社して間がない2003年頃、はじめて担当した低カロリーで、コラーゲンが摂れるゼリー飲料の開発は、自分の中で失敗体験として残っている。
「コラーゲンにはコラーゲン臭といって、ちょっとケモノのような臭いがあるんです。それを消して、美味しく仕上げようとするとカロリーが上がってしまう。決まった規格内に収めるのが難しい。合格ラインはクリアして発売しましたが、思ったほど売れなかった」
以来、飲料・ゼリー開発では、何度となく失敗と成功を積み重ねた。試験に合格し中間管理職になったのは2011年4月。
研究員として前職での経験や、開発時の試行錯誤の体験から、川馬は商品開発に携わる研究員の気質に熟知している。
研究員は総じて根が真面目である。そんな性格からか、時に研究に煮詰まることがある。商品開発は課題があり、時間も限られている。仕事が思うように進まない場合、どうしたらいいのかと自分で抱え込み、一人で思い悩んでしまうケースだ。だから管理職は、
「部下の話を聞くことが大事です。『一人で抱え込まずに、周りに相談するといいよ』とアドバイスし、時には解決の方法を一緒に考える。メールで送信されてきた質問に、返信するのではなく、僕はできる限り部下と直接会って向かい合い、相手の顔を見て話すことを心がけています。僕が不機嫌そうに見えると部下も話しかけづらいでしょうから、職場では自然体でいるように心がけて。部下と話し合い、問題点をお互いに認識し、自分にない部下の発想を引き出す、そんなお手伝いができれば」
“考える前にまず動け!まずやれ!”
部下だけではない。中間管理職は他部署との話し合いも大切な仕事である。例えば生産工場に対して、「この製品の生産工程では、この範囲の温度でお願いしたい」と申し入れることも、彼の仕事の一部だ。生産工程での制限は工場にとっては負担になる。そんな思いを川馬は十分承知をして説明を尽くす。
転職して間がない頃の2年間、彼は研究所を離れ工場の仕事に従事している。川馬曰く「工場異動が会社のことを知る上で、大きな分岐点だった」
工場では規定の品質で、同じ製品を作り続ける。そんな工場での生産はチームプレーだ。ラインの生産でも、全員がある程度のスピードも持って仕事をこなす。一人でもそのスピードを乱すと、周りに迷惑をかかることになる。前職から研究員として開発に携わることが長かった川馬は、“これは何だろう…”と、一つの現象について、考えてしまうクセがついている。と、
「川馬くん、遅いよ。迷惑なんでもっと早く仕事をしなさい」工場の先輩にかなり強い口調で、叱咤された。「有難うございました」咄嗟に先輩に対し、謝意が口を突いたのは、考える前にまず動け!まずやれ!ということが時には必要だと、気付かされたからなのか。