「もえちゃん、やりたいこと全部やらないとダメ!」
その40代の胃ガンの女性の患者さんも厳しい状態でしたが、抗ガン剤治療は全部やりたいと頑張っていた。私は患者さんの子供と同じぐらいの年だったし、可愛がってくれました。
癌の末期で、ベッドに寝たきりの状態だったある日、「もえちゃん、やりたいことないの?」と、その患者さんに聞かれて。「ほんとは救急をやりたかったんですけど、自信がなくて……」思わず胸の内を吐露した。すると患者さんは声を絞り出すように、「諦めちゃダメよ」と。「やりたいこと全部やらないとダメ、もえちゃんだったらできるよ」って。
患者さん本人は末期ガンで、予後が短いとわかっていても諦めずに頑張っている。それにひきかえ私は……。私が日勤の日の夜に、その患者さんは亡くなられて、お見送りは出来なかったのですが。
病棟で患者さんが急変した時、院内急といってすぐに救急の医師と看護師を呼びます。救急の看護師はトレーニングを受けていて。すべての治療は医師の指示のもとですが、心停止なら心臓マッサージを2分間、ダメなら電気ショックを施行、もう一回2分間、心臓マッサージをして再び電気ショック。それでも蘇生が難しい場合はアドレナリンを投与する。そばにいて“すごいなー”と感じていましたし、“よし!”あの患者さんに応えようと私は思った。
病棟の責任者の師長さんからも、「救命で研修を積んでみたらどう?」と声をかけられ、今、救急センターの看護師として研修を受けています。まだ1ヶ月ですが、急性硬膜外血腫で意識が混濁状態で搬送された40代の患者さんは開頭手術で、硬膜と頭蓋骨の間に出来た血の塊を取り除く大きな手術をした。
「セルフケア能力を上げていきましょう」と、先輩看護師がリハビリを促して。1ヶ月ほどで患者さんは、片手を動かせるようになりました。ご飯を自分で食べられまでに回復し、リハビリ病院に転院していった。
人の命はたくましい。もっと勉強して、看護師として、身体の異常な状態の判断を的確にできるようになりたい。子供ができたら夜勤は厳しいので、勤務先は考えるかもしれませんが、看護師はずっと続けたい。患者さんに寄り添って生きていきたい。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama