「オレは性善説で考えたい」
だが、彼女は無理やり何かを通すようなタイプではない。多分、部下はそういう仕事をしてこなかったに違いない。人に少々強く響いても、自分の考えを積極的に口に出したり実行できたら、さらにこの部下は伸びると高田は感じている。その点、彼はけっこう本部長に意見に口を挟むこともあるという。
例えば、これも働き方改革に関してのことだが、「会社に行かずに取引先に直行します」とか「出社時間を遅らせます」とか、これまでの広域営業本部の決まりでは、スーパーフレックスは前日までの申請だった。基本的に朝9時に全員出社し得意先に向かった。だが「当日の朝に、『今日はスーパーフレックスにして、得意先に直行します』と連絡してきてもOKにしよやないか」と、本部長が提案した。確かにその方が効率的な時もある。しかし、高田は渋い顔で本部長に口を挟んだ。
「でも部長、そうするとモラル低下につながりませんか?」当たり前だが、酒造会社に就職する人間は酒好きが多い。前夜、つい飲み過ぎて「あーしんどい、今日は10時出社だとやっちゃう人がいるかもしれません」
彼は決して、自分のことを言っているのではない。高田のそんな意見に本部長は「オレは性善説で考えたい」と。「部長がそういうのなら、いいですけど」
スーパーフレックスは当日申請でもOKとルールは改まった。つい先日のことである。「お前のいいところは、上に媚びないことだよな」、部下の前で本部長からそんな声を掛けられた。彼としては内心、嬉しかった。
業務効率化のためのヒアリングを行ったもう一人の部下は、入社してから十数年、何かを取りまとめたり、自分の考えで何かを進めたりした体験がなかった。この先も与えられた仕事をこなし続けるのか。それとも自分が中心的な立場になり、仕事を進めていきたいのか。できれば後者になってもらえたら。高田は彼流のやり方で、部下にその自覚を促すように接していく。
後編では部下との接し方を通して、高田がサラリーマンとして、中間管理職として何を一番大切にしているかをあぶり出していく。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama