気づきをシェアすることでSDGsへの理解を醸成
ここからは、「ワークショップ」の時間に入る。高岩さんは、世界の状況メーターについて解説した。
「経済は、引き続き順調です。環境もきわめて良好で、地球温暖化を含めほとんどの環境問題が克服されています。社会は、途上国の学校の普及、女性の地位向上、性的マイノリティの地位向上など果たされ、皆が不安なく暮らせる社会が到来しています。全体的な達成率は100%という快挙ですね」
ここで一同拍手。高岩さんによれば、世界の状況メーターの結果は、プレイしたグループが所属する社風などによって、本当にばらつきがあるという。例えば、とある金融系企業の社員が参加したゲームでは、最後まで経済しか伸びなかったとか。
次に数分かけ、ゲームを体験して感じたことを、思いつくかぎり付箋に書きとめることが各人に求められた。その内容は読み上げて、床に置かれた5枚の紙に貼っていく。
高岩さんは、「目的は、ゲームの体験を通じてSDGsの本質・特徴をつかんでもらうことです」と言い、付箋に書かれたことを糸口に、皆でディスカッションすることになった。
「今まで考えたこともなかったが、経済、環境、社会は、相互に密接つながっているということを知った」、「世界を俯瞰的に見渡すことの重要性に気づいた」など、発言が飛び交う。筆者もまったく同意見だ。
「皆さんのおっしゃることは、本質を突いていますね」と高岩さん。
「私たちは地球の上で暮らしていますから、ベースとなるのは環境で、その上に社会があって、そこで経済が成り立っています。経済活動が上から下までを貫いていて、これが良くならないと、社会も環境も良くならないですよね。経済を大事にとらえているのが特徴。」と、高岩さんは、以下のスライド画像を見せた。
高岩さんは、スライド画像を次に進めて解説を続けた。
「ホールシステム・アプローチも重視していて、例えば安いスナック菓子。こうしたお菓子は安いヤシ油を使っています。大きなヤシ農園で安い労働力で生産されるのですが、耕地拡大のためジャングルが削られます。インドネシアでは森林の約40%が伐採され、生物への悪影響があり、CO2が増えて気候変動へとつながっていくという構図があります。このように様々な要素はつながっており、その対策は全部の要素について同時に進行しましょう、というのもSDGsの1つの考え方です。特定の誰かが悪い、というのではないのですね。各人がやれることをやるのが大事。最初は、興味を持つ、意識を向けるというところから始めてください」
プレイヤー全員に振り返りの機会が与えられるワークショップでは、人生のゴールを達成するための攻略的な話はなかったし、それはさして重要なことではないような気持ちになっていた。そもそも、「自分が悠々自適でも、銃弾が飛び交う社会はどうなのか」という気づきを得て、SDGsの理念の一端が腑に落ちる感覚があった。このゲームを体験した全員が同じ思いであったに違いない。そうした気づきの機会が与えられるという意味で、このカードゲームの意義は大きいのではないか、とうのが正直な感想だ。
SDGsは、メディアやSNSを通してこれからますます目につく機会は増える。この記事を読んで興味を持たれたら、カードゲームの会に参加してみるとよいだろう。
●イマココラボ主催のカードゲーム体験会の予定:https://imacocollabo.or.jp/events/future_events/
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)