“あっ…”美大出の後輩たちの驚くべき塗りの能力
ゆず肌がひどい時は紙ヤスリで表面を削り、塗り直しを部下の女の子に指示することもあります。
「その程度のツヤ感で満足しているの?もっとキレイに仕上げたほうがお客さんは喜ぶんと思うよ」と、現場で言葉にする時もあります。普段は周りから明るい人と見られている私ですが、仕事に対する姿勢が信用されているのでしょうか。
「後藤さん、私毎日辛くて……」泣きながら後輩に、そんな相談をされたこともありました。二人一組で仕事をしますが、組んだ相手と相性が悪いとどうにもなりません。「組み合わせを替えてあげたほうがいいと思います」上司には、そう進言しました。
塗装の仕事は下塗り中塗り上塗りと工程があり、中塗りと上塗りは同じ塗料を使うことが多い。私の場合は、「中塗りは適当で雑も、上塗りで同じ塗料をちゃんと塗れば、それでいい」という考え方の人とは、一緒に仕事ができない。一つの現場で平均100万円前後のお金がかかりますし、仕上がりが同じでも、手抜きはお客さんへの裏切りだと私には思えてしまうんです。
現場までの車の中から、現場では10時間近く一緒にいて。工期に間に合わせるために、綿密な打ち合わせもします。相性の悪い相手と組むと我慢できない。私自身も「すみません」と上司にお願いをして、ペアの相手を替えてもらった経験があります。
でも、そんなことは稀で、今現場で私の下についている見習いも、美大出身の明るい女の子です。美大生は学生時代から絵具まみれの生活をしているので、ペンキで汚れてもまったく気にしない。「タイル調のような、縦横に凹んだ部分がたくさんある外壁を塗装する時は、ローラーを斜めに転がすと、ほらきれいに塗れる」「わっ、ほんとだ、こんなに上手くできるんだ!」とか、自分の成長を楽しんでいます。
美大出身の子には驚かされますよ。塗装の色は白やベージュ、クリーム色がほとんどですが仕上げた後、うちの会社には美大出身の塗装職人によるアートペインティングという付加価値を与えるオプションがあって。先日も飼い犬のワンちゃんを玄関の横の壁に描いてほしいと犬の写真を渡された。美大出の女性職人はお客さんとの打ち合わせ通り、ワンちゃんがご主人を見上げるような後ろ姿を壁に描きました。それがなんとも可愛くて。
これまでの人生で就活の時とか、化粧をしたことは数えるほどしかありませんが、そんな生活はこれからも続きそうです。いずれは実家のある福岡に戻り、塗装屋をやりたい。九州でうちの会社を広げたいと思っています。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama