駅員はつらいよ…でも!
苦情はもちろんですが、駅員は駅で起きたいろいろなことに対処します。例えば痴漢の場合は被害者と、被害者が加害者だと訴えた人、両者が事務室に来てくれないと警察対応ができません。ですから、一方がいなくなってしまわないように気を配って。
ある時はホームで気分が悪くなった年輩の女性が、「ちょっと休ませてください」と。駅の救護室で休んでもらい、「救急車を呼びますか」「いえ、救急車には乗りたくありません…」
でも、気分は悪くなる一方に見えたので、救急車に来てもらいその方を病院に搬送する手配をしたんです。すると後日、その年配の女性が駅に訪ねてこられて。病院で体調も回復し不調の原因も判明した。「本当にありがとう」と、菓子折りをいただいたんです。
驚きましたね。意外でした。お客さんが安心して毎日電車に乗れる、それを目指して私たちは仕事をしている。「何もなく1日が終わることが一番いいことだ」と、教育をされています。
私たち駅員は特別なことをしているとは見られません。駅でお客さんと接しても、お礼を言われることはほとんどありません。それでいいんだと思っていますけど。感謝の言葉と菓子折りまでいただいて、この時ばかりは改めてやり甲斐と、嬉しさがこみ上げてきて……。
えび〜にゃも一緒にテープカット
相模大野駅に1年半勤務し、次に海老名駅勤務に異動になったのですが、そのタイミングで海老名駅にロマンスカーが止まることとなったのです。初めて停車した当日は改札口の横にステージを設け、海老名のゆるキャラのえび〜にゃや市長も来席して。
テープカットがあり、盛大なイベントが催されました。聞くところによるとロマンスカー停止駅への誘致運動も盛り上がったといいます。
日常の業務では、通勤通学等のお客さんと接していますが、小田急線は箱根や江ノ島に通じている。展望台のあるロマンスカーにはファンも多い。式典に参加して、旅の思い出を作る鉄道という面もあるんだと、自分の仕事に新ためて心地いい想いを抱きました。
法律が改正され、女性が宿泊を伴う勤務が可能になった十数年前から、駅務の女性は増えましたが、全体の1割弱です。「あら、女性の駅員さんもいらっしゃるのね」「女性の方がお願いしやすいわ」というお客さんの声を聞くことがあります。言葉の柔らかさや声の高さも男性と違うので、女性駅員の方が穏やかに聞こえるのでしょうか。
今は窓口の業務も担当しています。いつも決まった特急の席を購入される、常連のお客さんとは顔見知りになって、「ありがとうございます。いつもの席ですね」と、お声がけをして。「不慣れでごめんなさいね」「席はどこをお取りしましょうか」「そうね、窓側が」「このあたりはどうですか」とか、年配の方とはそんなやりとりをして。
これからますます、業務の自動化は進むでしょうが、駅には人間同士のふれあいがあり笑顔があります。駅員として人とのふれあいや笑顔に応えられるようにしたい。袖すり合うのは何かの縁と言いますが、その意味では駅務に就いて延べ、何百万人という方と触れ合いました。赤ちゃんからお年寄りまで、人への考え方、接し方は学生時代よりはるかにバリエーションが増えた、今そんな自分がいます。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama