お酒の失敗もたくさんしてきた
好きとお酒が強いのとは別の話です。毎日、晩酌をする習慣もありませんし、僕は2合ぐらいが限界で。ですからお酒の席での失敗は何度かあって。会社の飲み会で4軒ぐらいはしごし、ベロベロに酔って「大丈夫、大丈夫です。蔵人ですからこんくらいの酒で…」とかなんとか言って、会社の先輩たちと別れて。気付いたのは朝で、商店のシャッターの前で寝込んでいた。店のおばさんに傘で突かれて目が覚めて。たまたま夏で良かったです。
仕事の関係で、他の酒蔵の蔵人さんと飲む機会はよくあります。前橋での会合では飲みすぎて、上越線で帰りましたが、寝過ごして気付いたら終点の水上駅で。始発まで駅で待って下宿のある沼田まで戻り、そのまま出勤したこともありました。
ある時の蔵人の集まりの席では、ストイックに酒造りに取り組む40代の蔵人さんがいて。僕も酒造りに煮詰まったり、考え込んだりするタイプですから話がヒートアップして、思わず批判めいたことを口にしてしまった。
「なにでかい口を叩いてんだ!?」と、うちの副杜氏にゲンコツをくらいまして。「昨夜はすみませんでした」翌日、その蔵人さんに謝罪の電話を入れました。
蔵人として僕も駆け出しですが実は昨年、高校を卒業して、うちに就職した19才の後輩がいます。その後輩がこの前、掃除中にちょっとケガをしてしまった。僕が彼の仕事をケアしてあげられなかったことに責任を感じまして。未成年なのでお酒は飲めませんが、食事に誘いました。酒の席での失敗もありますが、この時は僕なりにお酒の素晴らしさことを後輩に伝えようと。
「オレみたいな考え過ぎるタイプで、しゃべりが苦手でも、酔って心地よくなれば本心から話ができる。人と人が分かり合えて仲良くなれる、オレはそんなお酒のスペシャリストで、良かったなって思っているんだ」そんな話をしました。
「なんで国立の大学を出て、酒造りをしているの? 今からでも遅くないから、公務員になりなよ」先輩の蔵人さんに、そう言われることもありますが、ショックです。こんなに楽しいことをやっているのに。
冬の朝、まだ誰もいない酒蔵に足を踏み入れると、リンゴのようなコウジのほのかに甘い香りを感じます。そんな時は微生物と共に仕事をしていることを実感し、身体が引き締まり背筋が伸びる思いがします。
美味しいお酒を作りたいです。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama