「同じことを何度も言わせるな!」
見積書を作りはじめた頃は、自分の中で確認したつもりでも、誤字や脱字や数字の間違いがありました。
「オレが作ったほうが早い。お前の見積りを確認するほうが時間かかる。面倒臭いな」とか、言われたこともありました。
「そんなことを言うんなら、自分で作ったらいいじゃないですか」そう口に出して言える立場ではありませんが、イラッとしたこともありました。
でも振り返ると、強く言ってもらって有り難かった。見積書の数字は必要な金額や商品情報を意味します。例えば商品コードを間違えると、得意先に別の商品が手配されたり、お店に出すポップや価格表示が違ってしまったり。うちが赤字を負うことになってしまうケースも考えられます。
「同じことをなんでも言わせるなよ!」先輩から、そんなきつい言葉を投げられたこともありました。得意先によって見積りのフォーマットの書き方がそれぞれ違っていて、書き方は教えられたのですが、間違えたことを記入すると、後で先輩に手間を取らせることになる。
フォーマット通り見積書に書き込んだつもりでも、僕は記述に自信が持てなくて。「これで大丈夫ですかねぇ……」とか、隣の社員に何度も聞いてしまった。きつい言葉を投げられたのはそんな時でした。
「お前な、新人社員だから、教えてもらって当たり前だと思うなよ」これも先輩の言葉でした。
学生時代とは違う……、それは先輩の言葉から抱いた実感です。僕は学生時代、部活もサークルの経験もなかった。後輩の面倒を見たり、責任ある立場で判断することもなかった。でも社会人になって感じたのは、業務の一つ一つが会社のためにやっているということ。業務の責任は社員である僕が取らなければいけないということ。給料をもらっている以上、当然のことです。
甘えるな、いつまでも学生気分でいてはダメだ、先輩はそれをわからせるために、僕の胸に刺さるような言葉を投げたのでしょう。
確かに甘えていたな……。わからないことでも、まず自分でよく考える。どうしてもわからなかった時のみ、問題点を整理して聞く。そういう態度で仕事に取り組もうと、自分に言い聞かせました。
社会人としての考え方や一般常識、マナーや言葉遣い、教えられたことはそれだけではありません。社会人としてお酒の飲み方や、人との付き合い方も、年が一回りも違う、同じ部署の先輩社員に教わりました。
厳しいが人情味があり面倒見がいい。一回りも年上の先輩たちに揉まれ、一人前の社会人として、仕事の面白さを感じられるようになっていく。提坂さんの成長物語は後編、益々盛り上がっていく。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama