■連載/あるあるビジネス処方箋
「そんなことは聞いていない」-。今回は、この言葉について考えたい。最近、私は中堅出版社(社員数約400人)に勤務する編集者(男性、40代後半))から言われた。半年近く前に一定の条件のもと、コンビを組んで仕事をすることになった。250ページほどの本を私が書いて、この編集者が制作する。仕事をともにするのはこれがはじめてであるが、10年ほど前から年に数回は連絡をとる間柄だった。
半年ほど前から、私は本を書くスケジュールや現在の進捗についてメールや電話を通じて頻繁にこの男性に伝えてきた。その都度、何らかの回答はあるのだが、どうも不自然だった。要領を得ていないのだ。たとえば、Aという質問をすると、Gが返ってくる。B、C、D、E、Fがない。今度はそれらを聞くためにメールを送ると、数日後に回答があるが、やはり、B、C、D、E、Fがない。
彼がベテランということもあり、それ以上、メールを送ることを避けていた。送ったところで、こちらが求めている回答がないことがわかるのだ。電話でも、直接会って話をしても、要領を得ない。私は1から10までのことを聞きたいと思い、話し合いをしても、1~3まで答えるのが能力面から限界という感じなのだ。
それは、無理もないかもしれない。この編集者は40代後半でありながら、非管理職なのだ。部下がいないし、管理職になったことは1度もない。中堅出版社では、こういう人は今の40代では少ない。
先日、私が「11月末にそちらの出版社から私にお金を払ってもらうことで、いいですね」と同意を求めると、彼は言った。「そんな話は聞いていない」。挙句に「その時期に、会社としてお金を払うことはできない」と言う。11月末にこの編集者が私にお金を払うことは半年ほど前に双方の話し合いで決まった。しかも、私は現在までに5~6回とメールや電話を通じて念入りに確認してきた。そのメールは今も、私の手元にある。私は彼の「そんな話は聞いていない」という言葉にただ驚き、しばらく声が出なかった。
私の頭に浮かんだのが、会社員の頃に仕えた上司(男性、40代後半)だった。
この上司もまた、「そんなことは聞いていない」と何度も言っていた。私やほかの部下たちが何度も報告したことについて、堂々と「聞いていない」と言い返してくる。そして、これまでとはまったく異なった指示や命令をしてくる。部下である私たちは混乱し、放心状態になることもあった。とにかく、無茶苦茶なのだ。