この連載記事を書く数日前、30年近いキャリアをもつ人事コンサルタントを取材した。中小企業(この場合、正社員数が300人以下)の管理職は、なぜ、自分のことを「優秀」と思い込んでいるのか、どうして自信満々なのか、といったことが話題に上がった。少なくとも、そのコンサルタントの方と私の間では、そのあたりの認識が一致した。今回は、中小企業の管理職が勘違いしやすい理由について考えてみたい。
1.「管理職」になることが簡単
中小企業が抱える問題のひとつに、社員の定着率が低いということがある。短い期間に次々と辞めていくため、なかなか人材を育成することができないという事情がある。結果的に、業績が長い間、伸び悩むという負のスパイラルが生まれる。ただ、こういった組織の中で管理職になるのは、大企業に比べるとはるかにスムーズだ。要は、ライバルが少ないのだ。
ここ十数年、大企業では管理職になれない人が溢れているが、一方で中小企業の多くは、30代前半で何らかの役職に就くケースが多い。中には20代後半でマネージャーになる人もいる。こういった具合に部下の育成力がないまま、簡単に数人の部下を持つようになる。取材する立場から見ると、「ここまで簡単に管理職になると、部下は大変だろうな」と思ってしまう。社員の定着率が低い理由は、このあたりにもあるのだ。しかも、大企業のような厳格な人事制度や評価システムがないため、管理職になった瞬間、「自分は優秀だ」と勘違いをしてしまうのも無理はない。
2.“勘違い”しやすい環境
小さな会社では、同世代の社員たちが次々と辞めていくから、いったん管理職になると、部下や後輩から何かと頼りにされやすい。当然、社長や役員など経営者たちからも期待される。こういう生活が何年も続くと、やはり“勘違い”してしまうものなのだ。大企業の場合、管理職になるのは30代半ば以降が多い。新卒で入社し、十数年間、煮え湯を飲まされる。この経験により、少なくとも中小企業の管理職よりは自らを顧みる習慣が身につく。また、勘違いするような状況も生まれにくい。
3.人事異動や配置転換が少ない
中小企業は、大企業のような、定期の人事異動があまりない。行なわれたとしても、異動する人の数は大企業よりはるかに少ない。つまり、同じ部署にいる期間が自ずと長くなるのだ。例えば、私のつきあいのある中小規模の出版社では、経理課や書籍編集部に30年近く在籍している社員がいる。聞くところによると、異動した経験がないという。大企業に勤めている人からすると信じられないかもしれないが、こういう会社はたくさんある。
だが、人事異動がないと、その仕事については経験や知識などが豊富になるわけだが、長く携わっているという事実だけで、「自分は優秀だ」と思い込みやすくなる。一方で、部下や後輩が次々辞めていくと、新人に自分が教科書だと言わんばかりに教える。その繰り返しによって、いつしか「自分がいないとこの部署(仕事)は動かない」と思い込んでしまうのだ。