元はヤクザで、高価な貴金属をぶら下げ、高級外車を乗り回していた。だが今はボランティアで少年院をまわって講演活動を行ない「彼が語りかけると再犯率が下がる」という驚くべきデータも持っている。加藤秀視。体中に彫り物がありながら、文部科学大臣奨励賞、衆議院議長奨励賞などをもらったのは彼だけだろう。この人物の方法論は単純明快で、そのメッセージは「愛しなさい」とそれだけだ。だが、目新しい部分がある。愛する対象は「自分自身」なのだ。彼のメソッドを、半生を描きつつ全3回のシリーズでお伝えしたい。
■ゼリーを盗んで、見た「聖母」
絵に描いたような「育ちの悪い家庭」だった。父は酒乱で、少年・秀視の目の前で母を殴りながら犯した。小学校2年生で施設に預けられたが、ここでは性的虐待を受けた。誰かに相談することなど選択肢にもなかった。彼にとっては、世界中どこにいても同じような環境で、自分に親身な大人など誰もいない。
ただ、生来のものだろう、自己犠牲の精神はあった。
「たまに家に帰ると、深夜、父が母を殴り始めます。するとボクは、あえて起き出すんです。親父が『何で起きてんだよ!』と怒り、暴力が自分に向かうのを知っていたからです」
弟も施設に入れよう、という話になった時、秀視少年は「こんなヤツと一緒はヤダ」と言い張った。弟に自分と同じ思いをさせたくなかったからだ。そんな秀視も、盗みはやった。可愛いもので、彼が盗んだのは「ゼリー1個」。
インタビューの時、彼の手元にはお菓子があって、中にたまたまゼリーがあった。彼はハート型のそれを手にとって、掌で小鳥でも包むかのようにしながら話した。
「ボクは盗んだあと、なぜか『絶対ばれる』という確信を持っていたんです。でも、ばれなかった。そして何週間か過ぎた時です。施設の大人が『ゼリーを盗んだヤツがいる』と言いだした」
ちょっと時間が経ちすぎている。俺が盗んだぜりーじゃないのかも……と思った。だが、加藤は名乗り出た。誰かが「盗んだ」と言うまでみんなが部屋へ帰れないのだ。彼は致し方なく、冷たい廊下で正座し、みんなを解放した。これを掃除のおばちゃんが見ていた。彼女は多分、真犯人を知っていたのだ。このあと、加藤に声をかけた。
「おばちゃんに『あんた、本当はいい子なのよね』と言ってもらえたんです。ボクはこの時、生まれて初めて、体中が愛情で満たされたような気がした」
少年・秀視にとって、おばちゃんは聖母のように見えたろう。普通のおばちゃんでも、場合によっては聖母になれる。逆に、少年・秀視はこれほどまでに愛情に飢えていた、とも言えるだろう。もしかしたら、人間は、それほどに愛情が必要な生き物なのかもしれない。
■加藤秀視/かとう・しゅうし
1976年、栃木県生まれ。元暴走族・ヤクザの社会起業家。2007年にJapan元気塾を設立、08年から少年少女更生のための講話活動を開始し、非行少年少女の預かりも開始。09年に文部科学大臣奨励賞、衆議院議長奨励賞などを受賞。著書に「だから、自分をあきらめるな!」(ダイヤモンド社)、「ONE 「1つになる」ということ」(李白社)など。