イルカショーのMCデビューまでの道
イルカには、すべてホイッスルとエサで演技を教えます。例えばイルカにジャンプを教えるなら、勝手にジャンプした時にホイッスルを吹いてエサをあげる。それを繰り返すことでジャンプ、OKのホイッスル、エサとイルカは覚えます。
長い棒の先端に丸い目印を付け、ここにタッチした時に笛を吹きエサを与える。この繰り返しで棒の先端の印、笛の音、エサと覚える。この棒を高くすれば高いジャンプをしますし、棒をクルッと回せばイルカはそれを追いかけて空中で一回転します。
ショーの司会を任されたのは、飼育員になって半年以上経った頃でした。MCデビューの前は、正面の大型ビジョンに映る自分の姿を想像しながら、「みなさん、こんにちわー、八景島シーパラダイスにようこそおいで下さいましたー。これから出てくるのはカルフォルニアアシカたちです」とか、一人でステージに立って練習しました。
MCデビューの日は緊張しすぎて、プラスチックのエサ箱を腰に固定するベルトを強く締め過ぎてしまい、箱が浮き上がってエサが飛び出てしまった。動物は良い演技をするとエサがもらえると刷り込まれていますが、目の前にエサが沢山あったら、私たちの指示など無視し食べることに夢中になり、ショーになりません。
イルカもアシカも野生動物は、個体によって性格が違います。私の太ももを噛んだチャチャオはやんちゃで、一度ショーの途中で腰のエサ箱の中に顔を突っ込まれて、プールの中にエサをぶちまけてしまったことがあって。エサがプールに浮いていたら演技はしません。しばらく中断したこともありました。
徐々にイルカやアシカ、セイウチたちとの付き合いも慣れていく吉川さん、しかし相手はペットではない。野生動物である。演技をこなしていく上で、野生との付き合い方の難しさや野生動物の可愛さをさらに気づいていくのだが、それは後編で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama