今回のマト1(マトリクス1の略称、詳しくは、この記事で)話のテーマは、レッド・ツェッペリンのファースト・アルバム『Ⅰ』だ。今年で結成50周年となるレッド・ツェッペリンはイギリスのアーチストながら、デビュー時に契約したのはアメリカのアトランティック・レコード。アナログレコードのマト1はレコードを生産する国ごとに存在し、もっとも音がいいのは、そのアーチストの母国盤とされる。ツェッペリンならUK盤となるが、アメリカのレコード会社所属なので母国盤はUS盤という解釈も成り立つ。
『Ⅰ』に限らず、そしてツェッペリンに限らず、中古市場価格はUK盤のほうがかなり高い(そもそものプレス枚数が少ないからだろうが、アメリカのアーチストにも概ね当てはまる)。『Ⅰ』は、圧倒的にUK盤が高い。しかし僕が『Ⅰ』のUK盤US盤マト1を聴き比べた限りでは、音はどちらもいい。ただし音の傾向が異なり、どちらがいいかは好みの問題だと思う。僕は音場に広がりがあり華やかで元気のいいUS盤のほうが好きだ。UK盤は相対的に音に密度があり、タイトだ。ここでは僕の好み、US盤を中心に書いていくことにする。
プレス工場ごとに存在する「マト1」
一口にUS盤マト1と言っても、一筋縄では行かない。というのは当時、アメリカには複数のレコードプレス工場があったからだ。広い国土ゆえの配送上の都合、プレス枚数が多くひとつの工場ではまかなえない、などが主な理由だろう。PR工場、MO工場、RI工場、CTH工場、SP工場他、全米に渡ってプレス工場が存在し、各工場で初回プレスされた盤がその工場生産のマト1ということになる。つまり、工場ごとにマト1があるのだ。同じマト1でも工場によって音が違い、西海岸生産の音は明るく東海岸生産はしっとりしているという説もあり、全工場をコンプリートするコレクターもいるようだ。
アトランティック・レコードの場合、当時のカッティングを行うメイン工場がPR工場だったので、ここのマト1が最も音がいいとされている(なお、PRはPreswell工場、MOはMonark工場を指し、フルネームと略称の関係がシンプルだが、RIはRichmondにあるPhilips工場のことでRIは地名からきていたりと、略称の説明はややこしいので割愛する)。工場名はアトランティックならレーベルのレコード番号の次に、たとえばPR工場生産の『Ⅰ』ならST-A-681461-PRのように印刷されているので一目瞭然だ。